王子様とブーランジェール
そして、その隙間から狭山の声が響いた。
「竜堂…これから、ステージ上で神田を攻撃する。恐らく、神田は顔から全身ボコボコになるだろう」
はぁ?…ボコボコ?
攻撃…何だって?!
「…助けたくば!それを持って、ランウェイ中央付近に待機しているがよい!バカめ!」
そう言って、ドアがガラッと開き、何かが飛び出してくる。
それは、俺の腹にボスッと当たった。
そして、再びピシャッとドアが閉まる。
な、何だ…?
腹に当たったものが、足元に落ちていた。
何をぶん投げてきたんだ?
拾って確認する。
え…。
それは、この状況とは結び付かない、首を傾げたくなるものであった。
野球のグローブ?
しかも、白い。
カラースプレーで、無理矢理白塗りにしたような感じだ。
そして、紐が紫で、なぜかラメ入り。
なぜ、野球のグローブ…?
そのグローブを手にし、茫然と立ち尽くす。
これはいったい、何を意味するのか…。
「竜堂くん…」
立ち尽くしていると、俺と狭山の攻防を見ていた菊地さんが傍にやってくる。
「…あ、騒いだりしてごめん」
「いや、それより。桃李、もうすぐ出てくるよ?」
「え?」
「恥ずかしい格好といえば、恥ずかしいのかもしれないけど…すごく可愛くなってたよ?竜堂くんにも見て欲しいな」
「え?」
か、可愛くなってたよ?って?
言っていることの意味がよくわからない。
…狭山に、桃李を恥ずかしい格好で全校生徒の前に晒してやると脅迫まがいで言われたが。
恥ずかしい格好って…てっきり、桃李自身を傷つけるひどい格好のことだと思っていた。
桃李のあんなに騒いで嫌がっていた声を聞いて、焦っていたりもしたけど。
ひどい格好どころか…可愛く?
何だそれ。
ひょっとして、俺。
この状況をよく飲み込めていないんじゃ…。
何だか。
とても、大きな勘違いをしているんじゃ…。
まさか…。
今までの経過と、現在の状況を頭の中で照らし合わせてみる。
落ち着いて、考えてみろ。
だが、傍にある控え室内がドタバタと騒がしくなっている。
思わず気になってしまい、顔を上げ、そっちの方向を見てしまった。
けたたましい物音や、女子の怒鳴り声が響く。
『…しぎゃああぁぁっ!!』