王子様とブーランジェール
この一段と汚すぎる悲鳴…!
桃李か?!
だが、その悲鳴と共に、会場のBGMであったカッコいいクラブ系の音楽は急に停まる。
薄暗かったステージ上は、ライトアップされていた。
そして、女子の声のアナウンスが響く。
『ーー昔々、あるところに、美しいお姫様がおりました』
すると、ステージ奥から、バタバタッ!とけたたましい足音が聞こえる。
その足音は次第に大きくなっていた。
そして、その大きくなる足音と共に。
ドレス姿の…姫が、登場したのである。
(…嘘っ!)
現れたドレス姿の姫は、息をきらしてステージの真ん中に立ち尽くしていた。
辺りをキョロキョロと見回している。
オドオドとしており…挙動不審だ。
そして、顔をあげて、真っ正面を向いた。
「…ひいぃぃっ!!」
目玉をひんむいて、汚い悲鳴を上げる。
ランウェイ周辺の観客の量にビックリしたのだろうか。
純白のチュールが何枚も重ねられた、フワッとしたシルエットのドレスに。
レースアップで大胆に開いた胸元。
綺麗に巻いてアップヘアになった頭には、ティアラが乗せてあり。
どこから見ても、お伽噺に出てきそうなお姫様だ。
これが、恥ずかしい格好?…なのかな。
貝殻ビキニを想像した自分、とても恥ずかしい…。
しかし、そんな綺麗なドレスとは裏腹に、ゼーゼーと息をきらしており。
その挙動不審っぶり。
汚い悲鳴。
間違いない。
ステージ上に立っているのは、桃李だ…。
しばらく、その見違えたドレス姿に目を奪われるも、一瞬で現実に返る。
と、桃李?!
どういうことだ?
な、なぜおまえがそこにいる?!
まさか。
狭山だけではなく、桃李も…だったのか?
『王国で一番美しいお姫様、しかし、その美しさを妬むあまり、今日も魔女にいじめられ、逃げている最中なのであります』
挙動不審のまま、ドレス姿でランウェイを歩いている。
モデルのような颯爽とした歩き方とは、随分かけ離れており、周りの目とドレスの裾を気にしながらオドオドと歩いていた。
高いピンヒールのせいもあるのか、チュールから透けて見える足が何となくガクガク震えている。
明らかに、挙動不審。
な、何やってんだ…。
恥ずかしい格好で全校生徒の前に晒される。
こういうこと…なんでしょうか。