王子様とブーランジェール
何だか拍子抜け…。
…するのは、まだ早かった。
おぼつかない足取りで、ランウェイを歩き進めているお姫様。
突き当たりとなるセンターサークルまで辿り着き、その真ん中で立ち止まる。
そして、センターサークルを囲む観客を見回す。
またキョロキョロと…何かを探してる?
『魔女から逃げ回っていたお姫様ですが、とうとう魔女に追い付かれてしまったようです!』
そのアナウンスと共に、場内は少しだけ暗くなった。
ステージ上が紫色にライトアップされる。
またしても、クラブ系のBGMが流れてきた。
重低音が効いている曲であり、何か…悪者が登場しそうな曲だ。
…いや、悪者が本当に登場した。
いつの間にか、ステージ上にいた。
照らされたライトの同系色である、紫のタイトなドレスに身を包んだ、狭山…!
いつもの金髪のロングヘア頭には、キラキラと黒く光ったラインストーンのピンがいくつも散りばめてある。
首もとも同じ黒の大きめのビジューネックレスを光らせ。
大胆に入ったスリットからは、細い足と10㎝以上はあるヒールのサンダルがチラリと見えていた。
魔女だ…。
魔女をモチーフにしたドレス姿?
しかし、その煌びやかで妖艶な衣装は、見てくれは十分すぎる美人な狭山にはしっかりハマっている。
おしゃれな魔女だ…!
馬子にも衣装。
そして、なぜか右手には紫色の金属バット。
なぜ、ここははずさないんだろうか。
しかし、反対の左手には大きめの黒い手提げのカゴを手にしていた。
中には、赤い…球?
野球ボールサイズの赤い球がわんさかと入っている。
あれは、何だろうか。
…しかし、その赤い球が最大の武器であることは、誰もが想像しない。
『さあ!とうとう魔女が現れてしまいました!お姫様、大ピンチ!』
すると、紫色の金属バットを肩に担ぎ、カゴを持って歩き出す狭山。
その堂々たる歩き方は、まさに魔女。悪者。
少し歩いたところで、立ち止まる。
赤い球がたくさん入ったそのカゴを置いた。
「…ひいぃぃっ!」
狭山の方へと振り返った桃李は、その姿を見た途端、またしても汚い悲鳴をあげる。
その様子を面白がっているのか、狭山はそこでも「クックッ…」と、悪魔の笑いを見せた。