王子様とブーランジェール
素手や凶器でボコボコにするのではなく…打球でボコボコ?
いや、どっちにしろ、桃李がボコボコになるのには変わりがない!
しかも、こんなステージ上で、公開処刑のように晒し者にしやがって!
…許されないわ!狭山!
俺の大事な桃李を…!
こんなこと、やめさせてやる!
人混みを掻き分けてランウェイに向かう最中、語り部のアナウンスが流れる。
『あーあ。魔女の強さにお姫様は全然太刀打ちできません!このままじゃ、毒リンゴを食べさせられて殺されてしまいます!誰か、助けてあげて下さい!』
ホント、太刀打ち出来てないし。
言われなくたって、助けるっつってんだよ。
ランウェイのセンターサークル付近にやっと辿り着いた。
間近に見ると、遠くで見ているのとは違って、狭山の打球のスピードが改めて早いことがわかる。
桃李はまだかろうじて、避けきれているようだが。
これ、本当にボコボコされる…!
『…あぁ、どこかに、王子様はいませんか?白いグローブを持った王子様、早くお姫様を助けてあげて下さい!』
え…。
左手に持ったままのグローブを見つめる。
先ほど、狭山に投げつけられたグローブ。
カラースプレーで、白塗りしてある野球用のグローブ。
これ、そういうことなの…?
手に持ったグローブを二度見してしまった。
そして、何となく察してしまった。
狭山に、桃李を盾に取られ。
まんまと挑発に乗り。
この体育館にやってきてしまった。
まさか、俺は。
最初から狭山にハメられていたのでは…!
いや。どこからかって?
恐らく、最初からだ。
教室で、桃李が拉致された時から…!
…と、今さらわかったところで、何なんだ。
目の前で、桃李がボコボコにされかけていることには変わりがない。
狭山の思惑にハマってたまるかと思うところはあるが、この場合はそうじゃない。
堂々とハメられてやろうじゃねえか。
俺が行かなくて。
誰が行くというんだ。
松嶋とか、高瀬か?
…いやいや、そんなのは許されないわ。
理人だって、ダメ。
桃李が窮地に陥った時に、それを助けるのは。
俺でなくては、ならない。
ランウェイのセンターサークルに手を掛ける。
…その為なら、どれだけでも戦ってやる。