王子様とブーランジェール
掛けた手に力を入れて、体を引き上げる。
足をかけて、一気に上った。
ランウェイに乱入。
突然の男子生徒の乱入に、会場は若干どよめいていた。
だ、だろうな…。
すると、早速この人が高笑いをしていた。
「フハハハハ!…ようやく来たな?私の殺人ノックに恐れをなして逃げ出したかと思ったぞこのバカめ!」
その笑い、もはや魔女ではない。魔王だ。
おまえごときに恐れをなして逃げるもんか。
「来てやったぞ…いい加減にしろよ?この狂犬が!」
目の前に立ちはだかる狭山に向かって、怒鳴り返す。
しかし、狭山はますます笑っている。
「竜堂…おまえに!私の!殺人ノックに着いてくる技術はあるのか?あぁ?」
すでに、リンゴに見立てた赤いボールを手にしている狭山。
早速来るのか!
慌ててその白いグローブを左手に装着した。
ボールを宙に上げ、バットを両手で握って振ってくる。
金属音を鳴らした打球は右方向…桃李の真ん前!
ちっ…どこまでも狙いやがって!
踏み込んで少し飛ぶ。
手を伸ばした先に、間一髪で球はグローブの中に収まった。
捕球してそのままうつ伏せに滑り込む。
しかし、この狭いセンターサークルの中、危うく滑り落ちそうになった。
あ、危ない…!
「へぇー。ピッチャーライナーの見事なダイビングキャッチだな?…おまえ、野球したことあるのか?」
「…野球ぐらいやったことあるわ!」
小学生の時、地元のサッカー少年団にいた俺。
いつも練習しているグランドの横に、少年野球場があって、そこでよく少年野球の連中と、練習の後や、練習の無い日によくみんなで野球やったりサッカーやったりしていた。
少年野球チームは人数が少なかったため、よく練習試合に駆り出されたことがある。
てなわけで、ある程度の守備やバッティングは出来る。
グローブの感触、久しぶり。
「あわわわ、なつき…」
桃李が、座ったままこっちに移動してきた。
…何こっちに来てんだ!
「おまえはこっちに来るな!下がって頭伏せとけ!頭に当たったら死ぬぞ!」
「あ、あ、あ、はい…」
そして、またおりこうさんに後ろに下がり、頭を伏せていた。
ったく…。