王子様とブーランジェール




しかし、狭山の打球は次々と飛んで来る。

カンカンと金属音が連続して鳴り続ける。

そんなバットから繰り出される打球に飛び付く俺。



今度は左方向のライナー。

少し走ると追い付いて捕れる。

真っ正面にも当たりの強いライナーが来た。

すると、次はまたしても右方向のゴロ。

手前で跳ねて、ショートバンドになり、少し前に出てグローブを返して捕球。

次々と、次々と…。

「おまえ、逆シングルでショーバン捕れるのか!なかなかだな!」

「………」




何となく、我に返る。

何で、こんなことやってんの…?



…いやいや。桃李をこの打球から守るためですよ。

俺のかわいい桃李、ボコボコにされてしまうから。




だが。




これ、いつまでやんの…?



考えてみたら、この狭いランウェイ。

来るパターンのコースは限られている。

だから、大体の打球は捕れる範囲に来るワケで。

ちょっと外れたファールボールは捕る必要ないからな。

しかし、狭山はバットコントロールが良いのか、ファールボールはひとつもない。

桃李にとっては殺人ノックだったかもしれないが、俺にとっては…何てことないな。




いったいこれ、何の勝負…?

いや、勝敗あんの…?



この意味がよく分からないバトルに疑問を感じ始めた。




終わった後、どうするんだ?

何が、終わり?

カゴの中のボールが無くなったらか?

でも、その後は?

あの狭山のことだ。

また殴りかかってくるんじゃないか?

ここは、全校生徒の前。

この間のデスマッチじゃあるまいし、暴力沙汰は避けるべきだ。




このバトル。

勝利条件は、何か?

どうすれば、俺達の勝ち?




飛んでくる打球を処理しながら、考える。





そして、打球の嵐は停まった。



狭山の足元に置いてあるカゴの中のボールは、空っぽになっていた。

ノック、終わった…。



しかし、狭山は怯むことはない。

不敵な笑みを浮かべ、紫色の金属バットを握り直す。



「…竜堂コラァーッ!!」



金属バットを振り上げて、こっちに走ってきた!

やはり!

…やはり、そういう展開になるのか!



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