王子様とブーランジェール
ストーカー、恋愛チキン、こじらせ過ぎ…。
いつもいろいろ突っ掛かっては来るけど、今日は朝から随分パンチが重い。
理人のヤツ、マジで急に何なんだよ。
後からじわじわと怒りが込み上げてくる。
「何睨んでんの?チキン」
「るっせえな!」
「あ、ストーカーだっけ。ごめんごめんチキン」
「何回もチキンストーカー言うな!」
そこには何の意図があるのか。
その時は考える由もなかった。
理人と睨み合いをしているうちに、奥の方からバタバタとけたたましい音が聞こえてくる。
ヤツのお出ましだ。
「あああぁごめん二度寝しちゃったあぁぁっ!ごめえぇぇん!」
奥の住居スペースからバタバタと出てきた。
頭はいつものライオン丸ヘアーだ。ボサボサ。
今のバタバタで、眼鏡ももちろんずれてる。
期待を裏切らないな…。
「大丈夫大丈夫。今ちょうど7時半だから。焦らなくていいよ」
登場した桃李の前ではコロッと態度が変わった。対応の仕方が優しくなっている。
さっきの嫌み野郎はどこへ行ったんだ?
この野郎…。
桃李はまだ焦り続けているのか、キョドって落ち着かない様子だ。
「ごめんね理人!理人が起こしてくれなかったら、大遅刻だったよぉー!…あ、夏輝ももう来てたんだ」
なっ…!何?そのついで感?また…!
度重なる怒りとショックに、もうボロボロだ。
ボロボロになった俺を癒してくれるのは、もうこの店内に充満している焼きたてのパンの香りしかない。
あぁー。良い匂いしてるよ、おまえたち…。
あぁ…。
「ところで、桃李。パンは?」
「あ、それはもう準備万端なの。ここにあるよ」
そう言って、あわただしくローファーを履いている。踵潰れてる…。
桃李の傍には、大きな紙袋が2つと同じ大きさの布製の袋がひとつ。
これがヤンキーたちのために焼いたパンか。
量多すぎないか?
「桃李、これを持ってけばいいのか?」
理人は行動が早い。
すでに荷物を手にかけていた。
「うん!お願いねー」
「ほら、夏輝もボーッとしてないで持てって」
「………」
ボーッとなんかしてねえし。
なのに、ボーッした人にされて。
何?このやられまくってる感。
すると、桃李が俺のところにわざわざ荷物を持ってきて手渡してくる。
「お、お願いします…」
悲しみにくれている場合ではない。
今日の役割は、荷物持ち。
ストーカーでもチキンでもない(…)。
しょうがない。荷物持ち、全うしてやる。
ちっきしょ…。