王子様とブーランジェール




かなり高めのヒールを履いているくせに、普通に全力疾走している。

しかも、足早っ!

あっという間にセンターサークルにやってきて、俺の方に向かって飛びかかってくる。



やはり、狙いは俺なのか!



全力疾走で勢いがついたそのまま、振り上げた金属バットを振り下ろしてくる。

またこれか!

右方向に転がって回避した。

しかし、狭山の次の一手は速い。

連続でバットを次々に振り下ろしてくる。

前夜祭同様、防戦一方だ。



そんな防戦一方を繰り広げている中。

ちょっと、考えた。



俺達の勝利条件。

それは…。



「…桃李!」



センターサークル上では、攻防を繰り広げている中。

桃李はまだ、おりこうさんに頭を伏せていた。

こっちをチラチラと見ていたが、今の全力疾走してきた狭山の剣幕にかなりブルったのか、また深く頭を伏せていた。

しかし、今の俺の声で、顔を上げる。



「な、夏輝っ…」

「…おまえは逃げろ!…奥に!」



俺の勝利条件。

それは、第一に、桃李の身の安全を確保すること。



桃李がとりあえずここから退けば。

狂犬・狭山から離れてしまえば。

後はどうにでもなる。

ノック中はランウェイを塞いでいた狭山だが、今は俺を狙ってセンターサークル内に入ってきた。

逃げ道が出来た…今だ!



桃李、早く逃げるんだ。



「う、うん…わかった!」



桃李はよろよろしながらも、立ち上がる。

そして、攻防を繰り広げている俺達を横目にそろりそろりと逃げようとしていた。

って、何ゆっくり移動してんだ!

駆け足で逃げんかい!



「…走れ!」

「あ、あ、あ、はい!」



こっちをチラチラ見ながらも、桃李は言われたとおりに、一気に駆け出していた。

センターサークルを抜け、ランウェイに差し掛かろうとしていたが。



「…あぁっ!」



ドジ子の御約束。

叫び声と共に、前にドーン!と倒れ、うつ伏せに滑り込んでいった。

ドレスの裾をおもいっきり踏んだのか、ビリッ!と、布の契れる音がした。

履いていたヒールが、ポーンと脱げて飛んで行き、寂しく傍に転がっている。



あーあ…。

やってもうた…しかも、派手に。

どうして、そこははずさないんだ。

こんな時に…。



ガックリとくる。



おもいっきりすっ転んだ桃李は、起き上がらず、倒れたままでいた。



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