王子様とブーランジェール



何やってんだ!

早く起き上がって、逃げんかい!



しかし、桃李は一向に起き上がる様子はない。

相当派手にいったからな。ダメージが大きいのか?



ちっ…仕方ねえな!



こうなってしまったら、もう作戦変更するしかない。

金属バットを振りかざして、目の前に立ちはだかる狭山に視線を向ける。

「余所見するなバカめ!」

そう声を荒げて振り下ろしてきたバットを後退して回避。


…邪魔だ!


ずっと左手にはめていた白塗りのグローブを外す。

それを狭山の顔面狙って、投げつけた。

「…おっ!何を!」

そう声を上げながら、狭山は顔面に降ってきたグローブを左手で受け止める。

気を取られている隙を見て、狭山の脇をすり抜ける。

狭山を背にしたところで、一気にダッシュをかける。

「逃げるのか!」

「うるっせえな!」

ここは、逃げるが勝ち。

おまえと真っ向ケンカなんか、やってられるか!



センターサークルの向こうでは、桃李がようやく体を起こしかけており、また挙動不審気味に辺りをキョロキョロと見ている。

「桃李!」

名前を呼ぶと、振り返った。

自分のところに猛ダッシュしてくる俺を見て驚いたのか、ものすごい形相になっている。

「いいぃぃっ!」

「…逃げるぞ!」

「わわわわ!」

転がっているヒールをご丁寧に拾って、そのまま座り込んでいるドレス姿の桃李を一気に抱き上げ、肩に担ぐ。

「竜堂、貴様あぁぁっ!!」

狭山の怒鳴り声だ。

バットを振り回して、追ってくる!

どこまでもしつこいヤツだ!



追い付かれてなるものか!

肩に担いだ桃李をしっかりと抱えて、慌てて走って逃げる。

そのままランウェイを走り抜けて、あっという間に奥のステージに辿り着く。

一気に舞台袖まで走り抜けた。



後ろを振り返ると、狭山はすでにランウェイで立ち止まっており。

逃げ抜けた俺達の後ろ姿を見守っている様子だ。

悪い顔のまま。

追ってこない…?



そこで、改めてわかる。

このバトル自体、狭山の仕組んだ茶番劇だったということを。




桃李を担いだまま、舞台の袖に下がると、スタッフの女子が『こっちです!』と、手招きしている。

乱入してきた俺の存在に驚いていない。

連れられて、そのまま控え室に入る。



そうか。

この人たちもグルだったのか。


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