王子様とブーランジェール
中に入ると、スタッフの腕章をつけた女子が三人ほど並んで待ち構えていた。
拍手をしながら、出迎えられる。
「お疲れさまでーす!」
「飛び入り参加、ありがとうございまーす!」
飛び入り参加…。
やはり…。
一気にガクッと脱力した。
ため息が出る。
途中から、薄々と感じていたが、やはりな。
これは、罠だった。
目的は何だか知らんが。
すると、後ろからヒールを鳴らす足音が聞こえる。
もう一人の出演者、この茶番劇の黒幕のご帰還だ。
「…どうだったか?私の演出は!」
演出?…やはり、そういうことか!
狭山、このヤロー!
しかし、その登場にスタッフは更に沸き上がる。
「お疲れさまです!狭山さん、ありがとうございます!」
「見事な演出ですー!…あぁ、狭山さんに頼んでよかったー!」
「あの余興、すごく面白かったですー!観客も大盛り上がりでしたよー!」
「余興の後のウォーキングもキマってましたー!狭山さんすごい!本当にプロのモデルみたいです!」
一斉に、スタッフの拍手の渦となった。
何なんだ、これは…。
余興?な、何だと!
狭山を中心にスタッフが盛り上がる様子を横目に、またため息が出た。
肩に担いだままの桃李を、ゆっくりと下ろす。
…あ、そう言えば、コイツ御約束に転んでいたんだっけ。
「大丈夫か?」
「………」
しかし、桃李はうつむいたまま、無言で。
何となく、体が震えていた。
「…桃李?」
すると、俺達の前に。
再度、登場した。
「クックッ…竜堂、お疲れだな…?」
魔女…ではなく、狭山。
お疲れ…だと?このっ…!
「…狭山コラァ!どういうつもりだ!」
お疲れ!の一言に、なぜかとてもイラッとした。
脱力していたのに、一気に怒りが吹き出して元気になってしまい、勢いで立ち上がって狭山にドカドカと詰め寄る。
対する狭山は、俺のリアクションが想像通りだったのか、大口を開けて、大爆笑していた。
「ぎゃははは!バカが見る豚のケツだ!やはりまんまとこちらの思惑通りになりやがって!バカめ!」
「豚のケツ!…何だとコラァ!」
「クックッ…ファッションショーは長丁場だからな?中弛みで観客を飽きさせないために、中間で余興を入れようと家政サークルから提案があった。そのオファーを私は受けたのだ」
余興…あの、ワケのわからないノックのことか!