王子様とブーランジェール
さすがにそろそろ気付いて欲しい
『最っ低!』
グサグサグサッ!ときた。
狭山にハメられて飛び入り参加してしまった、ショーの余興も終わったところで。
半ば八つ当たりに、桃李に投げ掛けた言葉に。
桃李は…泣いてしまった。
そして、その場に居合わせた藤ノ宮律子に。
最低呼ばわりされてしまった。
最低…最低ですって…。
(最低…)
もう、何が何だかわからなくなって、茫然とする。
その間に、藤ノ宮は泣きじゃくっている桃李を連れて、控え室を出て行ってしまった。
「桃李、転んだところ大丈夫?」
「大丈夫だよ?桃李はちんちくりんじゃないよ?可愛いよ?」
「ドレス姿、似合ってるんだから」
そんな優しい言葉をかけながら、頭を撫でて。
藤ノ宮は、今のやりとりを聞いていたのか…。
…そのセリフ、全部、俺が言いたかったのに。
ちゃんと、思っていたことなのに。
言えなかった…。
しばらくしてから、俺も控え室を出た。
誰にも気付かれないように、そっと。
ショーは依然として続行中だったが、盛り上がる観客の輪から外れて、体育館の隅で一人座る。
そんな気分じゃない。
はっきり言って、茫然自失。
桃李を、泣かせてしまった。
とうとう、やってしまった。
俺のイライラを含めた一言は、見事に桃李のツボにハマってしまったのだ。
先日の高瀬の件のように、泣かしそうになったことは、何回もあるけど。
実は、桃李をこういう風にあそこまで泣かせてしまったのは、初めてで。
もう、ショックが隠しきれない。
泣かせたヤツを探し出して、ボコボコにしたことはあるが。
俺自身が、あそこまで泣かせてしまうことは…なかった。
ポケットに入っていたケータイのバイブが鳴る。
出して見てみると、理人からだった。
『どこにいんの?』というメッセージと共に、先ほどのステージ上で繰り広げられていたバトルの写真が何枚も貼付されて送られてきて。
その中には、桃李のあのドレス姿の写真もある。
写真を、ボーッと見つめる。
…すごく、かわいかったな。
キレイになっていて。
ドキッとさせられた。
正直、見とれていた。
これはもう、俺んちじゃなくて、教会に行くしかない。
…だが、そんないつもの冗談に盛り上がれる気分でもなく。
理人には返信はせず。
ショーで盛り上がりまくりの体育館を後にした。