王子様とブーランジェール
そういえば。
桃李…今、何してるんだろうか。
さっき、藤ノ宮に連れられて、体育館を出ていった。
それからどこへ行ったんだろうか。
体育館から出てくる生徒は次第に多くなっていく。
行列、生徒の波になっていた。
桃李、いないだろうか…。
思わず、姿を探してしまう。
さっき体育館を出ていったから、こんなとこにいるはずもないのに。
(会いてえ…)
桃李に…会いたい。
その生徒の人混みを、漠然と見つめながら、そこにいるはずもない彼女の姿が頭に浮かんでくる。
『わたあめの機械、運んでね』って、お願いしてくれたよな。
いつものビビりとは違って、ワクワクしているような雰囲気とニコニコ笑顔が良かった。
『わたあめコーヒー。あげる』って、甘ったるいコーヒーくれた。
毒味を指摘したら、『ごめんねー』って笑ってたっけ。
でも、いつものビビりな感じではない、軽くソフトに接してくれたことが、俺には嬉しかった。
うちわに何か書いてって頼まれた時は、さすがに困った。
でも『書いて書いて』って、せがまれた時は、困った反面、実は嬉しかったんだよな。
何てことない頼み事、お願いが嬉しかった。
そして、あんな大作を作ってしまった…。
(桃李…)
今、何を考えてる?
俺のこと…どう思っただろうか?
あの、泣いている顔が頭に過る。
…それは、あの時の…昔のあのことを、思い出させることで。
泣かせることは、決してしてはならないことだった。
同時に、胸を締め付けられたような感覚と罪悪感に襲われる。
聞きたい。
会って…話がしたい。
今までのことを思い返すと、だんだんと気持ちが高ぶってくる。
次第にいても立ってもいられなくなっていた。
吹き付ける夕下風のように、涼しげでいたいけど。
でも、俺の熱意は募る。
桃李に、会いたい。
すると、無意識に少しずつ駆け出していた。
辺りを見回しながら、宛はないが、足を進めてみる。
あれから…さっきから。
胸の奥がこう、モヤモヤとすっきりしなくて。
話したいことが、あって。
…それは、言い訳になるのかもしれないけど。
でも、聞いてもらいたくて。
…謝りたくて。
『ごめん』って、一言言いたい。