王子様とブーランジェール
頼まれた荷物をしっかりと持って、先に出た二人の後に続いて店を出る。
桃李の家から学校までは徒歩で約5分。
店を出ると、建物の隙間から、学校の姿がチラリと見える、そんな距離。中学校より近い。
こんなに近い距離なのに、2ヶ月もしないうちに15回も遅刻している…ある意味強者だ。
両手に荷物を持ちながら、二人の後ろに着いて歩く。
二人の世間話に耳を傾けながら、焼きたてで少し温かくなっている紙袋からのほんのりとした素敵な香りに包まれて、それに浸っていた。
紙袋の中から…あぁ、良い匂いしてんな。
焼きたてパンの香り。
これは、幸せの香りだよ。他人を幸せにする香り。
ぶっちゃけ、ヤンキーに食わせないで、俺が食いたい。
「桃李、今日は何焼いてきた?」
パンの香りに包まれて、思わず聞いてしまった。
前を歩いていた桃李はくるっと振り返る。
俺の横に来て、指折り数えて話す。
「今日はねー、クロワッサンとくるみパンに、あとイギリス食パンと…アップルパイ」
そう言って、俺の左手に持ってる方の紙袋を指差した。
「アップルパイ?」
「うん、アップルパイ!」
ニコニコと笑いながら、うんうんと一人で頷いている。
「アップルパイ、珍しいな」
店頭に並んでるのは見たことあるけど、ぶっちゃけパンとはちょっと違う部類なので、チェックしたことがなかった。
桃李も店頭に並んでるものはだいたい作れるだろうけど、アップルパイを作ったなんて話、聞いたことないし、俺もパンダフルのアップルパイは食べたことがない。
「何でアップルパイ?」
「あの小さい人、アップルパイ好きなんだって」
小さい人?!誰?
どいつのこと?
どの人?誰が小さいの?
言葉足らずめ…。
左手の紙袋に目をやる。
この袋には、アップルパイが入ってるのか。
(………)
どんな味がするんだろうか。
正直、正統派のパン一筋だったもので、スイーツ系には行ったことはない。
せいぜいチョココロネぐらい。
しかし、袋から洩れる匂いは良い。
何だか、香ばしさプラス甘酸っぱいフルーティーな匂いが混じっている。
この匂いを嗅ぐと、たまには悪くないかなと思ってしまう。
…って、今日のこれは俺が食べるものじゃないんだけど。
今度、買ってみようかな。たまには悪くない。
そんな、アップルパイのことを考えているうちに、学校にはあっという間に到着した。