王子様とブーランジェール
えー。
わたくし、竜堂夏輝はー。
この度、神田桃李さんに、心無い一言を言ってしまい、泣かせてしまったことを、深くお詫び申し上げます。
本当に、すみませんでしたー!
やだ。ふざけてる。
全然、お詫び感無し。
てなこと、やってる場合じゃない…。
最寄りの階段を駆け上がり、その作法室という小部屋のある2階を目指す。
確か、職員室の真横。
階段上がってすぐのところにあるはずだ。
しかし、2階のフロアに着いた途端、聞いたことのある女子の話し声が聞こえてきて、思わず身を隠す。
階段をもう少し上がったところに身を隠して、下の様子を伺った。
「…桃李ー?先行っちゃうからねー?」
この声は…藤ノ宮だ!
桃李…いるのか?!
ドアをバタンと閉める音がした。
そして、藤ノ宮ともう一人、話し声と足音が近付いてくる。
「桃李、花火見るの楽しみにしてたのに…」
「しょうがないよ。気を張ってて疲れたんだよきっと。後で迎えに来よ?」
「はい!」
「…あ。慎吾どこいるかな。連絡してみよ」
そう話して、階段を降りていく。
藤ノ宮と、尾ノ上さんだ。
「また慎吾ですか?律子さんってば本当に慎吾好き」
「だって慎吾しかいないもん。…あ、もしもし?」
二人の声が徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなった。
もう行ったようだ。
他に誰もいないか、辺りを確認してから姿を現す。
別に、警戒するのは俺を最低呼ばわりした藤ノ宮だけで良いんだけど、何となく。
すぐさま階段を降りて、作法室の前に行く。
桃李、いるのか…?
ドアをそっとノックをしてみる。
しかし、反応がない。
待ちきれず、今度はドアを少しだけ開けてみる。
「…桃李?」
小さい声で、呼び掛けてみる。
返答はなかったが、ドアのすぐ傍に上靴がひとつあった。
…一人か?
ドアをそっと閉める。
中扉、障子の引き戸が開いたままだ。
靴を脱がないまま、恐る恐ると中を覗いてみる。
「桃李…わっ!」
室内の様子に、思わず声をあげてしまった。
中は、なんというか…何とも言い難い光景だ。
悲壮感というか、情けないというか…。
おまえは、なぜいつもこんなんなんだ。