王子様とブーランジェール
だから、何でなんだよ…!
どうして、そういう風に思えるんだ?!
俺が怒ってなければ、それでいい?
ここは、桃李、おまえが怒っていいところなんじゃねえのか…?!
傷つけられて、泣いたのはおまえの方…!
なのに…。
何で…。
「ごめんね…」
何で…謝るんだよ。
謝らなければいけないのは、俺の方なのに…。
もう片方の靴下を履かせてやっている最中だが、動揺なのか、何なのか。
次第に手が震えてきていた。
ガクガクしていて、スムーズに履かせてやれてない。
何でだ?
何で、桃李はそういう風に考えてくれるのか。
考えてみても、なぜだかわからない。
ただ、おまえ、優しすぎる。
優しすぎるんだよ。
心無い、ひどい事を言った俺のことなんて、怒ったり、文句言ってくれて構わないのに。
なのに、逆に気を遣うだなんて。
本当に、優しすぎる。
だけど、その優しさに救われているのは…言うまでもない。
怒ってなかった。
嫌われていなかったって。
動揺した反面、ちょっとホッとしたりなんかしていて。
何だろうか、これ。
すごい、胸の奥が熱いんだけど。
「…靴下、履けたぞ」
何とか靴下を履かせられ、桃李に声をかける。
すると、ヤツはまたムクッと起き出した。
「…うん」
力尽きることなく、上半身を起こすことが出来た…と、おもったが。
表情は眠たそうに、ボーッとしている。
まだ目が半分しか開いてない。
そのうち、欠伸もしていた。
やれやれ。
本当にお疲れだ。
あの短時間の余興で、本当に力を使い果たしたと思われる。
そして、なぜか。
桃李は、座ったままノソノソと動き出した。
その動きは、ゆっくりとスローモーションで、やがて力無げに、這いつくばった状態となった。
な、何がしたい。
その動き、まるでアザラシだ。
その這いつくばった状態で、ゆっくりと移動しているのをしばらく見守る。
「花火…」と呟いていることから、どうやら花火を見に行こうとしてる?
いやいや。
そんな立てない状態で行けるワケないだろうが。
そして、そのうちガクッと体が傾いた。