王子様とブーランジェール
「あっ!…」
危ない!と、言おうとしたが。
言葉になる前に、壁にガスッ!と頭をぶつけてしまった。
「いたぁ…」
「な、何やってんだ!」
そのまま地に倒れ、ぶつけた箇所に手を当てている。
しかし、それでも眠気は覚めないのか、動きは変わらずふにゃふにゃとしている。
また起き上がろうとしてるぞ。
「はなび…」
不屈の精神だな。こんなところで頑張るんじゃない。
「なつき…おこして…」
「………」
協力し難い…。
しかし、ヤツの体はまたしてもグラッときていた。
また頭をぶつけるぞ?
それだけ眠気に侵されているっていうのに、なぜそこまでして朦朧としながらも動いていられるんだ?
そんなに、花火見たい?
それとも夢遊病?
体はグラグラと揺れ続けており、目はもうほとんど閉じかけている。
本当にまた頭をぶつけそうだ。
やれやれ。
傍へ行き、そっと体を支えてやる。
ゆっくり起こして、壁を背にして寄りかからせてやった。
これで安定するだろ。
「………」
顔を上げた桃李は、うっすらと目を開けていた。
目、座っている…恐っ。
正面からまじまじと見ると、一層の恐ろしさを感じる。
ホラーなんじゃないだろうか。
そして、その恐い目でじっと見つめられている。
な、何だよ。
「なつき…」
また名前を呟かれた。
そして、続いて何かをしゃべっているのか、かすかに唇が動いている。
しかし、声が小さくなっており、何を言っているのか聞き取れない。
まさか、呪いをかけられているのか。
「…あ?何だ?」
顔を近付けて、耳を傾けてみる。
かすかに動く唇を見て、何を言ってるのか把握しようとした。
…ちっ。何なのかさっぱりだ。
わからない。
しかし、桃李の唇ってよく見ると、ふっくらとしてるな。
柔らかそうだ。
やわらかそう…。
その事を考えてしまった時点で。
言ってることを把握するとか何とか。
そんなことは、頭から吹っ飛んでいて。
ただ、その唇に釘付けで、目が離せないでいた。
そして、再び唇が動いている。
かすかであるが、何を言っているのか聞き取れて。
「…助けにきてくれて、ありがと…」
急激に、胸が高鳴って、熱くなって。
何も考えずに、その唇に触れていた。
自分の…唇で。