王子様とブーランジェール
よりによって、なぜこんな時に白目!
ムードも何もありゃしねえ!
甘い甘いムードが一転。
おぞましいホラーの世界になった。
い、いつ寝落ちしたんだろう。
俺の決死の告白の最中に…!
いや。キスした時は、寝てたのか?起きてたのか?
いやいや。
まさか、キスされて目が覚めないワケない…よな。
「桃李、桃李」
名前を呼びながら、肩を揺すってみる。
ひょっとして、タヌキ寝入りじゃねえか?
照れくさくて、寝たフリしてるとか?
バカヤロー。なかったことにはしねえぞ?
何度も肩を揺する。
しかし、桃李は寝息をたてたままで。
揺すった反動で、顔がグラッと揺れて白目の寝顔があらわになった。
またしてもビクッとさせられる。
ヤバい。こいつ。
マジで寝てる…。
白目=深い眠り…だったっけ。
っていうか。
俺は、この白目のホラーな顔に、キスをしたっていうのか…。
(………)
頭を抱えて、うなだれる。
いや、俺も甘かったんだ。
こんな、ムードに流されて、勢いでこんな大事なことをしようだなんて…。
ちょっとムラッときて、キスしてしまうだとか…。
一人で勝手に突っ走ってしまった…。
あぁぁ…俺のバカ…。
やはり、冷静さを欠くなんざ、話にもならない。
結局、いつもこんなオチですか…。
しばらく、頭を抱えてうなだれる。
白目をむいたまま、爆睡中の桃李の横で。
事の状況を頭の中で整理すると、今になって恥ずかしさが込み上げてきて、それはもう大変な事態となった。
ヤバい。
とうとうやってしまったぞ。
キス…してしまったぞ。
で、5年越しの想いも口にした。
思い返すと、頭がチカチカとして熱くなってきてしまった。
でも、寝てたけどな…。
あのホラーな白目の寝顔を見ると、ため息が出てしまう。
だってこれ、寝てる間にキスだの告るだのやっちゃったって、桃李の耳には届いてないんだろ。
ノーカウントでしょ。
落ちるわ…。
その時、外の方からドンと連発する大きな音が聞こえた。
小部屋の小さい窓の外には、グラウンドが見える。
覗いてみると、グラウンドにはたくさんの生徒の姿があった。
花火、始まったか…。
「…桃李、花火始まったぞ」
一応、声を掛けてみるが。
ヤツは依然として、爆睡中。
俺の声なんて、聞こえるはずもない。