王子様とブーランジェール




少しうるさかった花火の轟音も、ピタリと静かになって、人のざわざわとした声が聞こえてくるようになった。

窓からグラウンドの方を覗いてみると、生徒たちがぞろぞろと移動している。

花火、終わったのか。

これにて、学校祭終了か。



思えば…学校祭、いろいろあったな。

胸キュン動画を撮ったり…見せ物小屋を作られたのはビックリしたが。

前夜祭では、全校生徒の前で高瀬と公開ケンカしたり。

うちわに絵を描きまくったり、浴衣着てわたあめ売ったり。

挙げ句には、ショーで狭山と野球やったり。

いったい何をやってんだか。



でも、桃李もお疲れさまだったな。

ステージ発表とか。

昨日と今日は、延々とわたあめを作っていた。



学校祭、何か疲れたな。



ため息が出るが、もう終わった。

こんなとこでずっとだらだらしているワケにはいかない。



「…桃李、終わったぞ」



畳の上に寝転がって、未だに爆睡している桃李に声を掛ける。

しかし、本当に爆睡しており、ピクリともしない。

やれやれ。

もう一回、キスしても起きないんじゃないだろか。

じゃあ、もう一回してみる?

…いや、しない。

今度は、がっちり起きている時に、堂々とかましてやる。



「…桃李、起きろ!」



体を、激しく揺さぶってみる。

「うーん…」

声を漏らして、顔をしかめた。

おっ。起きそうだ。

ここで一気に畳み掛ける。



「…桃李!」

右手で軽快に額をバシッ!と叩く。

ノリツッコミ風味のデコビンタをくらわした。

「ぎゃっ!」

悲鳴と共に、体がビクッとした。

慌ててバッと起き上がり、俊敏に辺りをキョロキョロと見渡している。



起きた。

ようやく起きたぞこのヤロー。




慌てて起きたはいいが、まだ夢の中なのか、ボーッした表情をしている。

周りの状況が把握出来ていない様子だ。



そして、ゆっくりとこっちを向いた。



「…あれ。夏輝」



ようやく俺の存在に気付いたぞ。

どれだけ時間をかけているんだ。



「よう…」

「い、いつからいたの?」

「いつからって…靴下履かせろっつーから、履かせてやっただろうがよ」

「え!そうなの?」



覚えていないのか。

じゃあ、その後のことなんて覚えているワケないよな。

やっぱり…。



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