王子様とブーランジェール
ただいまの時刻は、7時40分。約束の時間には間に合いそうだ。
指定された場所は、家庭科室。
学校の正面玄関口はもう鍵が開いていて、中には入ることができた。
靴を履き替えて、家庭科室のある3階へと足を進める。
「っつーか、理人の袋、何入ってんの?」
俺は、パンの入った紙袋を2つ両手に下げているが。
理人が持っているのは、布製の袋ひとつ。
それにさっきから、理人が歩く度にカチャカチャと音がする。パンの音じゃない。
「これ、結構重い。何か食器みたいだけど…」
「食器?」
話をしながら歩いていると、あっという間に到着した。
家庭科室。
もう、あのヤンキーたち…狭山エリや菜月は中にいるはず。
どんな顔して待ってんのか、これからどんなことになるのかは、ちょっと想像がつかない。
理人の言うとおり、これは着いてきて正解だったかも。
よく考えたら、桃李一人じゃ一抹の不安がある。ヤンキーを怒らせてしまうかもしれない。
こういうところは、よく気が回るよな。俺だったらこういう発想はしなかったと思う。
だから、俺はダメなのか。
だから、チキンとか言われるわけ?(…)
「もう…来てるのかな?」
桃李が家庭科室のドアに手をかけようとした。
その時。
逆にガラッ!と、勢いよくドアが開いた。
突然の出来事に、桃李は「ひいぃっ!」と、悲鳴をあげ、ビビって軽く後退している。
「桃李おっつかれー!」
ドアを勢いよく開けた主が、テンション高めに登場。
しかし。
「…えっ?」
現れた茶髪のポニーテールの女子。
その人、実は、俺達の知ってる人だったりして。
あまりの意外な展開に、俺達三人は言葉を失う。
「桃李、待ってたよー!…あれ?夏輝に、和田も一緒なの?ま、いいや。中に入って!」
「…じ、潤ちゃん?」
「屋久村さん?」
え、どういうこと?
何で、潤さんがいるんだ?!
このポニーテール女子は。
三年の屋久村潤さん。
俺達の同中の先輩…。
商店街の肉屋さんの娘さんで。
桃李とは仲も良いはず…。
ヤンキーがいるはずの家庭科室に、なぜ潤さん?!
いや、答えはもうわかるだろう。
恐らく、潤さんは。
あの狭山エリとは友達…!
家庭科室に入ると、やはり、いた…。
「よぉ、神田…よく来たな?」
奥には、偉そうにふんぞり返って座っており、こっちを獣の目で見ている…。
狭山だ…!