王子様とブーランジェール
「…竜堂おおぉぉっ!!ありがとおおぉぉっ!!」
終業式、学祭の片付けの後に、ちょっと生徒会からお呼びだしがあったため、少し遅れて部活に顔を出すと。
すでに練習が始まっているグラウンドから、ものすごい勢いでそう叫びながら、一番仲良しの先輩がこっちに突進してくる。
…はぁっ?!
今度は何!
仲良しの先輩、木元さんは両手を広げて俺目掛けて走ってきて、ガシッと抱き着いてきた。
勢いあまり、ガクンと後ろに揺れている。
「な、な、ななな何すか!」
「ありがとう!ミスターになってくれてありがとう!本当に本当にありがとうーっ!!」
そういうことですか…。
ハグされてお礼を言われるぐらいのことですか。
「もうこれで優里沙に捨てられずに済むよ…ありがとう。ありがとう。俺の命の、人生の恩人!」
「………」
あなたの頭の中、それしかないのですか。
クズ臭が漂ってきたぞ…。
「竜堂、おまえなら出来る!なれる!学校の顔・ミスターに!おまえしか適任はいない!いないんだ!クズ臭のする俺じゃ無理!頑張れ!頑張るんだ!」
そう言って、ハグしたまま背中を叩かれる。
まるで、激励のように。
もう絶句してしまって、何の言葉も出てこない。
やれやれ。
こっちはこうきたか。
自虐ネタなのか、前夜祭での発言を根に持たれてるのかは、定かではない。
率直な感想。
とっっても。めんどくせーことになってきた。
朝のあの後教室に行くと、みんな寄って集ってその話。
『竜堂くん、ミスコン優勝でしょ!すごいねー!』
『和田くんも準ミスだなんて、うちのクラス、イケメンの宝庫??』
『1-2フィニッシュでござい!ヘイミスター!』
松嶋はそう言って、尻を振って踊り出した。
あれだろ。某韓流アイドル。
一層いじってくるな。
『なあなあなあ。ミスターになったら、何あんの?』
咲哉、おまえもそこ気にしちゃう?
俺も何あるのか聞いてみたい。
『まず、来年度の学祭のポスターのモデルじゃね?』
『何っ!』
陣太、言われなければ気付かなかったぞ!
そうだ。そうだった…。
松嶋からもらった、先代ミスターのあのビラを思い出した。
い、嫌だ…。
そんな人前にあえて自身を晒すような真似…!
軽く落ちた。