王子様とブーランジェール
そんな唐突な発言がありながらも、小笠原ら皆の者はやかましさをキープしながら、俺の前を去っていった。
…ファンクラブ?冗談じゃない。
俺は芸能人でもアイドルでもない。
そんなものは断固拒否だ。
めんどくさ。
めんどくさ!
しかし、静けさを感じる間もなく。
次の来客が現れる。
『よう、竜堂』
いつものド派手な金髪を靡かせ、ケータイをいじりながら、廊下を歩いている。
ばったりと出くわした感じではあるが。
ヤツは、俺の顔を見るとニヤッと悪い笑みを浮かべた。
『昨日はおつかれさんだったな?』
ちっ。昨日今日でこいつか。
狭山…。
『あと、ミスター就任おめでとさんだな。バカめ!』
『………』
さっきの小笠原たちの反応といい、来年度の学祭ポスターモデルといい、今のところ何もめでたくはない。
むしろ、非常に損しているような気分で。
何のコメントもない。
心中が顔に出ていたのか、狭山は大爆笑している。
『何だ何だ。そのムスッとした顔は。高校の男子生徒のトップに君臨したのだぞ?もっと喜べ』
『喜べるか!何の特典もねえじゃねえか!』
理人の気持ち、わかるわ。
特典ないとやってられん。
『特典?おまえ、おまけ好きか?おまけ付きのお菓子買っちゃうタイプ?あと新発売とりあえず買っちゃう感じか?…そんな金の使い方では、ガラクタが増え、家計を圧迫するばかりだぞ!バカめ!』
『うるっせえな!おまけ好きは俺じゃねえし!それとこれとでは話が違うだろ!』
『特典ならあるぞ?ミスター就任の特典』
『…あるの?』
急な話のフリに驚きだ。
俺のビックリした顔を見て、狭山は更に笑っている。
『放課後、生徒会室に行って聞いてみるがよい。ミスターは学校を動かせるぞ?』
『…は?学校を?』
『建物自体が動くんじゃねえぞ?人を動かせるのだ』
それは…すごい特権だ。
しかし。
『…動かすタイミングって何なんだよ!やっぱ何の特典もねえじゃねえか!』
その点に関しては、何の想像力も働かない。
意味がわからん。
『…それはそうと、竜堂』
そう言って、狭山は手に持っていたケータイをポケットにしまう。
腕を組んで偉そうに、俺を見上げた。
何だ何だ。
また絡んでくんのか?