王子様とブーランジェール
糸田先生がプレゼント?
糸田先生はサッカー部の鬼顧問だぞ。
恐っ…。
しかし、まったく。
毎回何をやってるんだ。
遅刻を言い渡され、しょんぼりとしながら、席に着くヤツ。
後ろの席の仲が良い女子に「桃李ファイト!」と、言われていた。
ファイトじゃねえよ。
あと10分、早く目を覚ませ。
「桃李、遅刻15回目なんてなかなかやるな」
後ろの席にいる理人がボソッと呟く。
なかなかやるなって…。
「恐ろしい記録だわ。しかも30回記念のプレゼント、しかも糸田プレゼンツなんてよ」
サッカー部に入部して2ヶ月弱だが、糸田先生(47)の恐ろしさはもう身に染みるほどわかったぞ。
「プレゼンツの内容知りたいかも」
「…あのなぁ」
ため息が出る。
糸田先生の恐ろしさと、ヤツ、神田桃李(とうり)のバカさ加減に。
「しっかし、桃李も変わらないな。早起きしてパン焼いて二度寝して遅刻。中学の時から同じ理由で遅刻してるし」
「ったく、学習しねえんだよあのバカは!」
何だかイラッときて声を張り上げてしまった。
俺と理人と桃李は、同じ中学出身。
この遅刻もバカさ加減もずっと見てるワケで。
毎度毎度、お決まりか!
担任の仙道先生が教室を去っていき、1時限目が始まる。
代わって数学の先生が入ってきて、授業が始まった。
窓際の席から、広がる青い空をボーッと見つめる。
「今日はまず、先週の中間テストを返す。最高得点は、竜堂の満点」
おぉーっ!と、教室内にクラスメイトの声が響き渡る。
全員、俺の方を見た。
…あ、俺?
俺か。
「相変わらず成績優秀なことで?」
理人が後ろで一人拍手をしている。
「はいはい」
すると、俺の前の席に座っている陣太が振り向いて、俺をじっと見ている。
もう、このくだりは慣れた。
うざい。
「んでもって、イケメンだしなー?背も高いしなー?しっかり者だしなー?女の子にモテモテだしなー?名前もカッコいいしなー?…全人類男の敵!」
「るっさいぞ…」
「で?この間、2年の女子に告られた件、どうなった?え?野球部の先輩の好きだった女子みたいで、先輩落ち込んでたわー『1年死ね!』みたいな?」
「知るかよ…」
知らない人に告白されたって、どうすりゃいいんだか。
めんどくせー。