王子様とブーランジェール
しかし、桃李の後ろには、俺と理人がいる。
そこを狭山は絶対見逃すわけはなく。
「あぁ?…何だおまえら?」
俺達を認識した途端、ゆっくりと立ち上がり、こっちへやってくる。
昨日今日のことだ。忘れるわけがない。
表情は少し不機嫌だ。
「無駄にイケメン1号2号じゃねえか?…おまえら何しに来たんだ?あぁ?!」
やっぱり。因縁つけてくると思った。
狭山は下から見上げながら、昨日の一悶着の相手の俺達を睨み付ける。
そんな怒りのオーラを醸し出して俺と理人に詰めよってくる狭山だが。
そこへ桃李が。
「すみません。この人たちは私の同級生で、今日一緒にパンを持ってきてもらったんです。ちなみに、こっちは私の友達の双子の弟です」
そう言って、俺を指差す。
おいおい。そんな情報、このヤンキーにいるのか?
「へぇ?双子の弟…?」
狭山は鼻で笑う。
何だ。その必要かどうかわからない情報に食い付いたのか?
「…私にも双子の弟いるわ!バカめ!」
は、はぁ?!
双子率高っ。じゃなくて。
狭山はちっと舌打ちをした。
「…っつーか、貴様のことは調べついてんだよ。竜堂夏輝?」
そう言って、狭山は右手を差し出した。
痛々しく包帯に巻かれた三本の指を見せている。
…あ、これ、もしかして。
昨日の俺の…。
「キックボクシング全中チャンピオンだぁ?指どうしてくれるんだバカめ!これではバットが握れないではないか!」
「え?…マジ?」
「マジも何もないぞバカめ!この借りは必ず返すぞこのイケメン!」
狭山は俺に向かって吠える吠える。
ま、マジか…!
大した威力じゃなかったはずなんだけど!
「…とは言っても、折れとらぬ。ただの打撲だ。取るに足らんぞ一年坊主。私の指をへし折ろうなんぞ…」
狭山は、フフンとなぜか偉そうに笑う。
折れてないアピールか?
「あんた、昨日めっちゃ腫れて痛い痛い言ってたくせに。エリにケガさせるヤツがいるなんて、戦闘力高いねー?一年?」
「うるさいぞ奈緒美!」
「そんなことより、パン、パン。ライオン丸、パンちょーだい」
その奈緒美という茶髪ストレートロングのギャルは、狭山を押し退けて、手を叩いて桃李に合図する。
すでにライオン丸で定着してる…。
桃李は「あ、そうですね」と、自分のカバンをテーブルに置いて中を開ける。
エプロンを取り出して着けて、傍にある流し台で手を洗い始めた。
は?エプロン着けるとか、張り切りすぎじゃね?
しかし、このイベントは、パンを食べさせる。
ただそれだけのこと、ではなかったらしい…。