王子様とブーランジェール
その後も、部活でみんなにミスターミスターといじられる始末だった。
何があれば、ミスター。
ただ走っていても、ミスター。
ボールを蹴っても、ミスター。
トイレに行っても、ミスター。
糸田先生の機嫌をとってくれ、ミスター。
パーマとれかけてるぞ、ミスター。(←糸田先生)
まゆマネにおにぎりの中身を漬けマグロにするよう頼んでくれ、ミスター。
合コン開催してくれ、ミスター。
大河原さん、しつこい。
みんな、何かにつけて、俺をミスターと呼ぶ。
これ、何かの罰ゲーム?
本当に罰ゲームかのように、メンタルめった刺し。
疲れた…。
あまりにも疲れすぎて、大事なことを忘れてしまう。
あっ。
桃李を花火大会に誘うの忘れてた。
布団に入った後に気が付く。
しかし、もう夜中の12時を過ぎており。
まあ…明日、部活の帰りにパンダフルに寄ればいいか。
そう簡単に考えていたが。
この時点では、すでに遅かったことが後々に後悔を生むことになるのであった。
翌日。夏休み初日。
インターハイ間近の部活は昼過ぎで終わり。
みんなと別れた後、一人で徒歩で帰り道を歩く。
…今日は、帰りにパンダフルに寄る。
で、桃李に会う。
で、花火大会誘う。
改まって意気込んじゃうと、緊張を感じてしまうが。
実は…前ほど緊張しなくなっているのは、なぜか。
考えただけでももう恥ずかしくてダメ!みたいな感じではないのだ。
先日の白目にキスから、開き直っている。
なんか行けそうだ。
横断歩道を渡り、パンダフルへ足を向ける。
すると、店の前に人影が。
営業中に店の前に出している手書きの看板を書き直している。
金髪ショートのあの後ろ姿は、このパンダフルでは、いつもお馴染みの方だ。
黄色のキャミソールにデニムのショートパンツ…相変わらずの露出高めの服装。
「こんにちはー」
近付いて後ろから挨拶する。
俺の声に反応して、バッと俊敏に振り返った。
「おぉーっ!なっちー!久しぶりー!」
張りのある大きめの声で出迎えられる。
相変わらず豪快で迫力があるな…。
すると、背中に手を伸ばしてきて、ポンポンと叩かれる。
「なっちは相変わらずいい男だな?元気だったか?元気だったか?」
「え、えぇ。はぁ」
スキンシップが多いのも、相変わらず。
この女性は、このパンダフルの店長である、神田苺さん。
桃李の母親。