王子様とブーランジェール
そういや、顔を見るのは久しぶりかもしれない。
相変わらずの可愛い美人な顔だ。
話にはちょくちょく出てくるので、久しぶりな感じがしないな。
「で、部活帰りかい?腹減っただろ!寄ってけ!寄ってきなよ!なっちだったら、ご馳走してやる!」
「あ、ありがとうございます」
そして、あははは!と、豪快に笑っていた。
…この御方、神田苺さんは。
今年で38歳になる。
しかし、年齢の割には大層見た目が若い。
美人なのだが、迫力があって、豪快。
生粋の職人気質の御方。
…桃李とは、完全に真逆である。
本当に親子?と、疑いたくなる。
でも…今改めて見ると、眼鏡外した桃李とそっくりだな。やっぱ。
そして、このパンダフルの店長。
実はこの御方、ブーランジェールとしては、だいぶすごい腕を持っているのである。
苺さんは、道東の小麦農家の娘で。
小さな頃から、その小麦でうどんやパンを作っていたという。
そして、中学生からパン作りに没頭するようになり、高校も地元の農業高校の製パン科に入学。
それを機に、才能が開花。
全国高校生パン選手権などの高校生コンペだけではなく、ありとあらゆるコンペで優勝総ナメ。
終いには、外国のコンペにも出場し、最年少優勝という前人未到の結果を残し、製パンの世界では有名な御方だったそうだ。
そこに目をつけたのが、全国にチェーン展開をしている『パンダディール』というパン屋の社長。
苺さんが高校を卒業したら、パンダディールに就職するという条件でスポンサーとなり、フランス短期留学の資金も出したという。
…この社長が、パンダのおじいちゃん。桃李の祖父である。
高校卒業し、フランス留学を終えた苺さんは、条件通りにパンダディールの商品開発部に就職。
苺さんの考えた商品は、どれもヒットを飛ばし、かなりの勢いでパンダディールに貢献。
平行してコンペにも参加しており、優勝総ナメは続いていた。
しかし、その裏では、同じくパンダディールの営業部にいる社長の息子と交際をしていた。
この社長の息子というのが、桃李の父親。
だが、社長の息子には、親の決めた婚約者がいて。
二人はこっそりと交際していた。
しかし、そんな交際が公となってしまう出来事が。
なんと。二人の間に子供が授かってしまったのである…。