王子様とブーランジェール
それを知った社長は大激怒。
二人を別れさせようと、苺さんに堕胎を迫った。
しかし、苺さんはそれだけは拒否し、自ら会社を去り、彼のもとからも去り、実家に戻った。
だが、社長の息子は逆に自分の父親に激怒し。
自分の家を捨てて、苺さんを北海道まで追いかける。
そんな経緯で二人は結婚し、苺さんの実家で農家をお手伝いしながら暮らすことに。
しかし、苺さんは、生粋のパン職人であり。
身籠の体でも、出産後の体でも、パンを作ることを辞めず。
業務用の角食とクロワッサンを作り、企業に卸すという会社を自ら立ち上げてしまった。
そして、数年前に、社長とは和解をして。
社長の要望で、苺さんは自らのブーランジェリーを開店することになり、この地にやってきた。
と、いう、素敵なラブストーリー。
…と、いう話を、桃李が転校してきて間もなく、うちで俺の母親と理人の母親と苺さんで、ワインを呑みながら盛り上がって話をしていたのを聞いていた。
『きゃーっ!駆け落ち夫婦、素敵ー!』
『しびれるー!』
だなんて、ドッカンドッカン盛り上がっていた。
で、長々とエピソードを語って、何が言いたいのかというと。
この苺さんは、とてもすごいブーランジェール。
俺の大好きなクロワッサンの産みの親である。
「中に入る?まあ座んなよ」
そう言って、苺さんは手招きをする。
しかし、当の目的を思い出した。
「…あ、そうだ。苺さん、桃李は?もしかしてまだ寝てる?」
そうだ。目的を果たさねば。
パンも食べたいけど。
「桃李?フランス行ってる」
「フランス?…」
(………)
俺、耳おかしくなったか…?
「…え?フランス?」
「うん。フランス」
「フランス美術展じゃなく?」
「うん。フランス。もう今頃出国してるわ」
………。
「…え。え。…ええっ!!」
まさか。
まさかのまさかで。
こんな展開、ある?
桃李が…フランスに行った?!
「ふ、ふ、フランスって!な、何しに行ってんの?観光?」
「いーや。製パンの老舗学校の高校生向けサマースクールだよ。社長がどうしても桃李を行かせたがってねー。急に決まったんだ」
社長とは…パンダじいさんのことか。
「き、急に?!」
「うん。7月入った頃に急に」