王子様とブーランジェール



7月入った頃…急だな?

いやでも、これまでに日にちはあったはずなのに。

フランス行き?

教えてもらってない…!

何度も会話してるはずなのに、教えてもらってない!

し、知らなかった。



「ふ、フランスのサマースクールったって、桃李、フランス語喋れるんすか?」

「いや全然。でも、サマースクールには通訳さんいるし、社長も付きっきりで同伴してるから」

あのパンダじいさんとずっと一緒なのか…!

「い、いつ帰って…」

「さあー。スクールは2週間だけど、観光してくるだろうから…わかんない」

わ、わかんないって!

自分の娘が外国から帰って来る日がわかんない?!

それでいいの?!

放任過ぎない?!




しかし、知らなかった…。

教えて貰えなかった…。

フランスのふの字も聞いちゃいない…。



ずーんと落ち込む。



…いや、桃李にとって、俺はその程度の存在だということは、わかっちゃいたが。

こういうことが実際に起こると身に染みるわ。

落ち込むわ…。




これで、花火大会も御破算。

一人で浮かれて、バカが見る豚のケツだった。




また、同じような展開…。



「…え?なっち、もしかして知らなかったりなんかしちゃってる系?」

俺の反応を見て、すぐに察したのか。

苺さんは、恐る恐るとこっちを見る。

「え、まあ…」

「何だって!…何やってんだあのはんかくさい娘!なっちに何も言っていかないなんて!」

深い深いため息をついている。

「いやいや、学祭で忙しかったみたいだし…」

「もう!なっちは優しいなー!」

そう言って、俺の傍にすり寄ってくる。

そして、耳元でなぜか小声で囁くのだった。



「…なっち、こんなはんかくさい娘だけど、頼むから見捨てないでやってくれ。桃李はグズノロマドジではんかくさいから、なっちみたいなしっかり者が婿になってくれたら、母としては安心するんだけどなー?なー?それに、こんな良い男、他にはいないぜきっと。母としては、桃李はグズノロマドジではんかくさいからどうでもいいけど、私はなっちそっくりの孫を抱きたい。うちの一族の遺伝子に組み込みたい」

「はぁ…」



一人娘を、どうでもいいって…。

グズノロマドジではんかくさいって…。

桃李、随分ディスられてるぞ。



俺はどうやら、この桃李の母、苺さんに気に入られているらしい。

事ある毎に、桃李を嫁に貰ってくれとか、うちに婿に来てくれとか言ってくる。

本人より、母親に気に入られるって、いったい…。



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