王子様とブーランジェール
「…っていうか、おまえ知ってた?」
「今日さっき知った」
あれからトボトボと帰宅した俺は、とりあえず苺さんから貰ったクロワッサンたちをやけ食いした。
落ち込みのやけ食い。
そして、夕方になると約束通り、理人が家に来る。
約束通り、チャーハンパーティー開催。
「…あ、理人も知らなかったの」
作り上げた特製ネギだれチャーハンの大盛と野菜春雨スープを、我が家のダイニングテーブルに二人分運ぶ。
理人の前に配膳してやった。
「…おおっ。何この素晴らしいクオリティ。ザ・男の料理だ。…って、昼間、近くの公園で遊んでる美奈人に会って話を聞いた感じ」
「あ、そう…」
内心、ホッとする。
俺が知らなくて、理人が知っていたら、もう海に沈むくらい落ち込んでしまう。
「美奈人、セグウェイ乗ってた。母さんの知り合いのユーチューバーから貰ったんだって。…って、チャーハンうまっ」
理人はパクパクと休みなくチャーハンを口に入れている。
「簡単な料理なら任せろ。今度はラーメンだ」
「ラーメンは味噌でよろしく。…しかし、フランスねえ。桃李もいきなりだな。夏輝、花火大会残念だったな」
「………」
そうだ…。
花火大会は御破算となった。
そんでもって、桃李は日本にいない。
恐らく、夏休みの間、ずっと…。
桃李のいない、夏休み…。
そう考えると、さみしい…。
一段と大きいため息が出た。
「…もういい。こうなったら、部活に集中だ。インターハイもうすぐだからな。部活に燃えて燃えて燃えまくってやる」
「それ、フラれた男の言い訳くさいな」
「…フラれてねえし。それに桃李は立派なブーランジェールになるために勉強しに行ってんだ」
「自分に言い聞かせてるみたいな?悲壮感漂ってる」
「………」
自分に言い聞かせてなきゃ、やってらんねえよ…。
フランス行きも伝えられてない挙げ句、しばらく桃李に会えないなんて。
あの時のことが、夢に思えてくるわ…。
「それはそうとさ、生徒会の話、何だったの?」
そう言って、理人はスープを箸でかき回している。
「うーん…」
「…あれ。なかったの?特典」
「うーん…」
チャーハンを口に頬張りながら、言葉が出てこない。
特典か…。
特典というには…得なのか何なのかわからない。
やっぱり微妙なものだった。