王子様とブーランジェール
『ミスターってのはね、どこに行ってもみんなの視線を浴びるし、いつも人に囲まれて騒がれている存在だから、一人になれる逃げ場を与えましょうという、当時の校長の計らいで、歴代受け継がれてきたものらしいです』
テーブルの上に置かれたその鍵をじっと見つめる。
随分と粋な計らいですな。
たかが一人の男子生徒に屋上まるまんま一つ渡すとは…。
『鍵のスペアは事務室に置いてある。職員室には置いてはいないから、教員も立ち入れない場所となっている。恐らく君もファンから追いかけ回されることになると思うから、そういう時、逃げるために使ってくれれば』
書記さん、恐ろしいことをサラッと言ってくれますね。
ファンから追いかけ回される?
…先ほどの小笠原たちみたいなのに?
『…必要ですかね?』
つい本心をボソッと口にしてしまった。
そこでも書記の二村さんは、捕捉をしてくれる。
『…先代のミスターはそんなに使用してはいなかった。まあ、先代は生徒会役員でもあったから、生徒会室を逃げ場にしていたけどね。学祭の花火を見るときに屋上を使っていたぐらいだ。君も必要な時だけ使えばいい』
『…そうですか』
背中を押されたかのように、その鍵を受け取る。
『二つ目は、お金です』
お金…?
生徒会長、サラッと普通な感じで言っちゃってるけど…金?!
すると、二村さんは、大きなファイルを持ってきて、生徒会長に手渡した。
『これは「ミスター御予算」と言って、歴代のミスターがスポンサーから集めたお金』
『す、スポンサー?!』
『そう。このミスター制度に面白がってお金を出しちゃう奇特な大人が結構いるのよね。そのお金をこっそりプールして隠し持ってるの』
何っ!
それ、結構ブラックだぞ?!高校生ごときが!
『お、お金…何のために使うんですか!』
『そう。全然使わないから、たくさん貯まって仕方がないのよ。歴代のミスターは、体育祭などのイベントで全校生徒や先生に差し入れをするぐらいかな。でも全然減らない』
そして、生徒会長はそのファイル…帳簿を開く。
『…ええっ!!』
その残額とは、想像していた桁とは遥かに違った。
現代の成人ですら、こんな額、貯蓄できるか?っていう額。
『でも、このお金を使う時は、その使い道に正当性があるかは生徒会で協議しますから、不当に使うことは出来ないからね?』
つ、使わねえし…!
こんな未知の世界に想像力なんて働かないから、無理無理。