王子様とブーランジェール
「へぇー。売店使い放題じゃなかったんだー。それなら俺もいらない」
「…だろ?こんな意味のわからない特典、俺もいらない」
「そのお金って、差し入れ以外に使い道ないもんかね。今度グランドで焼き肉大会開催してよ。シャトーブリアン全校生徒分買って、ゆめぴりかの新米で作ったおにぎり添えて」
「あー。それは楽しそうだな」
それなら、あのプール金はあっという間に無くなるぞ。
シャトーブリアンゆめぴりかパーティー、いいな。
「それに、先生への口出しの権利だって、夏輝には不要じゃない?そんな権利無くたって、夏輝は小学校から先生一人追い出してるじゃん」
「…おいおい!その話はやめろ!それに、あれは俺がきっかけになっただけで、追い出したのは俺じゃない!」
でも、はっきり言って、そんな厳かな立場になってしまう権利など不必要だ。
先生を言うこときかせる権利?まるで、覇王じゃねえか。
教育上、良くないぞ。大人をひれ伏すなんて。
…大人に勝てないから。
学べることだって、ある。
俺はただのDK。城も金も、ましてや学校を動かせる権利なんて、普通の高校生活送るのに、いる?
欲しいものはいろいろあるけど、そんなものは欲しくない。
「パンダフルのパン食べ放題だったらめちゃくちゃ嬉しいんだけどなー」
「それは桃李のカレシになっちゃえば、いつでも食わしてくれんじゃね?きっと毎日焼いてくれるよ?」
「………」
こいつ…核心サラッと言ってくれちゃって…。
俺の望みってこんなもん。
ささやかに暮らしていければ、それで良い。
でも、そんなささやかな望みこそが。
覇王になる権利より、獲得するのが難しかったりするワケで。
ほら、桃李はしばらく日本にいないし…。
「でも、城ってさー。女連れ込めるよね。歴代ミスターはその城を大奥のように使っていたのかな」
「理人、やめろ。なんて事を考えるんだおまえは」
おまえならやりそうだ。おまえがミスターにならなくて本当によかった。
だからって、俺じゃなくても…。
ミスター就任という、ワケの解らない立場に立たされ。
そして、桃李が日本におらず、しばらく会えない。
部活ではインターハイ間近のため、忙しく。
楽しみであるはずの夏休み。
今年の俺の夏休みは、寂しく切ないものになってしまった…。