王子様とブーランジェール
ご機嫌で何よりです。
我が家のボス。
キッチンでご機嫌に鍋にお湯を沸かしている、長身のおばさん…って言ったら怒られる。
身長170㎝のスレンダーな女性、ですね。
うちのおかん、竜堂紫季、46歳。
…いや、戸籍上は、竜堂マリア紫季といって。
父は日本人。母はフィリピン人。
そう、この人は日本とフィリピンのハーフなのである。
確かに、目鼻立ちはくっきりはっきりしているので、言われれば「あぁ、異国の血は入ってるわね」といった感じだが、ハーフだと言わなければ、日本人であることを疑われることはまずない。
函館でイカ漁をやっている祖父。祖母はフィリピンから出稼ぎで日本にやって来て、フィリピン人パブに勤めていて、そこで二人は出会う。
祖母は日本国籍が欲しかったため、祖父に猛アタックをして、半年ほどでできちゃった結婚をしたらしい。
その日本国籍獲得のために作った子供が、うちの母。マリア。
…いや、マリアと呼ぶと、ものすごい怒られる。
職業は、看護師。
近くにある精神科の病院で病棟師長をしている。
病棟でもボス役。
…実は、理人の母も同じ病院の看護師で、この二人の関係があって、理人と俺、ついでに秋緒は病院の院内保育園から幼稚園、小中学校と一緒なのである。
理人の母(万智さん・40歳)は、違う病棟の主任。
関係性は、上司と部下だが、仲良しのママ友、飲み仲間といったところだ。
それから、出てきた大量のそうめんを大量に食べる。
その後、デザートにアイスを食べてまた昼寝。
起きたらまたアイスを食べてソファーに寝転がって、ピンクを腹に乗せてワイドショーを見る。
またアイス…と、思ったけど、ヤバい。本日3つ目になる。
食い過ぎはヤバい。
我慢する。
太陽の高さも低くなっており、厳しい日差しが和らいでいてきた。
空の色も薄暗く、だいぶ落ち着いている。
ウッドデッキと繋がる窓を開けてみると、外は何となく涼しくなっていた。
…おっ。よかった。
これで、お互い命取られずに済んだぞ。な、ピンク。
ピンクを抱いたまま窓のサッシに腰掛け、しばらく夕涼みする。
冷房ほどひんやりはしないが、自然の風は心地が良い。
「夏輝ー!」
キッチンの方から、マリアが呼んでいる。
何事だ。
「何」
「ちょっとあんた、今から炭起こしてちょうだい」
…炭?!