王子様とブーランジェール
「…は?焼き肉すんの?」
「そーよっ。明日から休みだから飲むよー!それに、副院長からもらった美味しいお肉あるの忘れてたー。子供たちに食べさせてやってってー」
「…はっ?!肉?いつもらってたんだよ!何の肉!」
「昨日。A5ランクの十勝の黒毛和牛」
「A5ランク?!なぜそれを早く言わない!」
副院長先生、ありがとう。俺のために。
てなわけで。
トランクルームから、バーベキューコンロを取り出す。
火バサミや炭と焚き付けも一緒に。
危ない。危ないぞ。
A5ランク、もしマリアが忘れっぱなしだったら、危うく鮮度が落ちるところだった。新鮮なうちに食べなくては。
今シーズン初の家バーベキューだ。
今は親父も家にいないし、みんな忙しいからやる機会もない。
…昨年のブラックアウト以来か?このコンロを使うのは。
昨年、北海道を襲った地震。
幸い、うちの地域は地盤が強くて、家が倒壊などの被害はなかったし、家具が倒れるとかの小さい被害もなかったが。
しかし、札幌では約一日中停電で、大変だった。
シャワーのお湯出ないし。
電気が使えないから、炊飯器も電子レンジも使えない。
うちはオール電化だから、IHコンロも使えない。
飯、食えない…!
なので。
このコンロを使って、冷凍庫内にあった、溶けかかっている肉を全部焼いてやった。
米も、火で炊いてやった。
と、いうことがあった。
他にも、ケータイも最初は使えていたが、そのうち通じなくなってしまう。
すぐに病院にすっ飛んで行ってしまったマリアに代わって、函館にいるじいちゃんばあちゃんたちの安否確認はかろうじて出来たが。
今度は、隣の家に独り暮らししている、今井のおばあちゃんの安否確認にいったところ、階段から落ちて動けなくなっていた。
家に帰って、秋緒に救急車を呼んでもらおうと思ったら…バカヤロー。こんな時に、桃李と家で遊ぼうとしてるんじゃねえ!
などなど。いろいろ大変だった。
そんなことを思い出しながら、炭を並べて焚き付けに火をつける。
その横では、ピンクがウッドデッキから降りて芝の上で、暗がりの中、走り回っていた。
「おい!米炊いてる?!」
「炊いてる炊いてる。あ、あんた肉巻きおにぎり作るの?」
「作る作る!」