王子様とブーランジェール




後夜祭の時…あの時に言ったことを。

言ったけど、桃李は白目向いて聞いていなかったあの話を、もう一度しなければならない。

急にそう意気込んでしまった。



だが…。



「…どしたの?」

「…あ、あ、あの…」



言葉に詰まる。



ま、待て。

今このタイミングで言うべきことなのか?

唐突過ぎやしないか?!




あまりにも衝動的だったため、頭の中に言葉が用意されていなかった。

頭が真っ白になってしまったことに加え、ストッパーがかかってしまい、言葉が出てこない…!



あたふたしてる…カッコ悪っ!

だ、ダメだ!



しかし、呼び止めて何かを言いかけている以上、何かを言わなければならない。

そんな中、またしても苦し紛れに出てきた言葉が、これだ。





「フランス…どうでしたか…?」

「…え?」





そのセリフが口から出た直後に、おもいっきり自己嫌悪に陥る。

桃李、引き続ききょとんじゃねえか…!

何を口走っているんだ、俺は!

しかも、意味なく敬語。

顔を引きつらせたまま、固まってしまう。



あぁ…。

軽く挙動不審。

冷静さを欠くなんざ、話にもならない。




「…フランス、楽しかったよ?」



視界に飛び込んできたのは。

そう言って、笑顔を見せる桃李の姿だった。



「た、楽しかった…」

オウム返しで呟くと、うんうんと頷いて返される。

「楽しかったよ!いろんなパン作ったし、作り方も教えてもらったの!すごい楽しかった!あのね、見たことない道具使ってパン作ったの!」

「そ、そうか…」

「あとねあとね、石窯使ってパン焼いたの!」

「石窯…去年、地震の時に苺さんがやっていたヤツか?」

「そう!そうそう!カンパーニュ!お母さんほど上手には出来なかったけど、コツは掴んだからもう大丈夫。次は出来る。いける」

「へ、へぇ…」

「あとね、スクール終わってからは、パンダのおじいちゃんとブーランジェリー巡りもしたの!いろんなお店のいろんなパンいっぱい食べたー!フランスのごはん、美味しかったの!」

パンの話で、目を輝かせて一気に盛り上がって次々と喋り出していた。



よ、よかった…。

気まずくならなくて…。

話題がパンに移って、一人で盛り上がってくれて、よかった…。


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