王子様とブーランジェール




「や、やめろ!離れろ!近い!近い!」

顔を背けるが、追うように山田の顔も近付いてくる。

な、何でこいつ、いつもくっついてくるんだ!

「夏輝様ぁー。超いい匂いー。キュンキュンするぅー」

「は、はぁっ?!」

俺はおまえの青髭の剃り跡で、ゲロ吐いて倒れそうだわ!



すると、小笠原が扇子を振り回して、山田のふくよかな左腕をバシッ!と叩く。

山田は「あぁんっ!」と、抜けた声を出した。

俺の真横でそんな色っぽい声出さないで…。

男の色っぽい声…また、ゲロ吐きそう。



「もぉー!痛いぃー。麗華ちゃーん。ケツキックより痛いぃー」

「…おだまりフリージア!この炭水化物肥満女!夏輝様から離れなさい!あんたみたいなビッグマシュマロに密着されて、夏輝様が困ってるじゃないのよ!」

「そーよそーよ!フリージア!夏輝様から離れなさいよ!」

「毎度毎度抜け駆けするんじゃないよ!」

「手術したからって、攻めに入ってんじゃないわよ!」

「まずはチャーハンとカルボナーラ絶って痩せろ!」

「えぇー。そんなの出来ないぃー」



小笠原と愉快な仲間たちは、一斉に山田を攻め始める。

怒りの声が、飛び交う飛び交う。

そこの真ん中にいる俺。

うるさすぎて、鼓膜破けそう。

ゲロ吐きそうになったり、鼓膜破けそうになったり、何故こんなにも命危ない状況に立たされているのだろうか。



今置かれている状況に、呆然とする。



しかし、ビッグマシュマロとは、上手いことを言うな。

で、何?このくだり、鉄板になるの?

え?手術?山田、手術したの?どこ?どこの?

呆然としながらも、気になるところは気にしてしまう。



…それにしても。

これ、何の時間?

ファンとのふれあいの時間?

それとも命取られるスレスレの拷問?



…だなんて、そんなことをやってる場合ではない。



「おいおい。もう始業五分前だぞ。撤収せい。撤収」

何となく口にし、愉快な仲間たちの輪の中から出る。

すると、「はーい!」と、一斉に元気よく返事された。

了解の返事だが、ガクッとさせられる。

俺の言うこと、ちゃんと聞くのか。



その仲間たちの輪から離れ、一人歩き出す。

しかし、三歩あるいたところで、またしても俺目当ての人物が立ち塞がって来た。



「竜堂くぅーん、おはよぉー!」



その猫なで声。

またしても、ゾワッとさせられる。



< 428 / 948 >

この作品をシェア

pagetop