王子様とブーランジェール
「や、やめろ!離れろ!近い!近い!」
顔を背けるが、追うように山田の顔も近付いてくる。
な、何でこいつ、いつもくっついてくるんだ!
「夏輝様ぁー。超いい匂いー。キュンキュンするぅー」
「は、はぁっ?!」
俺はおまえの青髭の剃り跡で、ゲロ吐いて倒れそうだわ!
すると、小笠原が扇子を振り回して、山田のふくよかな左腕をバシッ!と叩く。
山田は「あぁんっ!」と、抜けた声を出した。
俺の真横でそんな色っぽい声出さないで…。
男の色っぽい声…また、ゲロ吐きそう。
「もぉー!痛いぃー。麗華ちゃーん。ケツキックより痛いぃー」
「…おだまりフリージア!この炭水化物肥満女!夏輝様から離れなさい!あんたみたいなビッグマシュマロに密着されて、夏輝様が困ってるじゃないのよ!」
「そーよそーよ!フリージア!夏輝様から離れなさいよ!」
「毎度毎度抜け駆けするんじゃないよ!」
「手術したからって、攻めに入ってんじゃないわよ!」
「まずはチャーハンとカルボナーラ絶って痩せろ!」
「えぇー。そんなの出来ないぃー」
小笠原と愉快な仲間たちは、一斉に山田を攻め始める。
怒りの声が、飛び交う飛び交う。
そこの真ん中にいる俺。
うるさすぎて、鼓膜破けそう。
ゲロ吐きそうになったり、鼓膜破けそうになったり、何故こんなにも命危ない状況に立たされているのだろうか。
今置かれている状況に、呆然とする。
しかし、ビッグマシュマロとは、上手いことを言うな。
で、何?このくだり、鉄板になるの?
え?手術?山田、手術したの?どこ?どこの?
呆然としながらも、気になるところは気にしてしまう。
…それにしても。
これ、何の時間?
ファンとのふれあいの時間?
それとも命取られるスレスレの拷問?
…だなんて、そんなことをやってる場合ではない。
「おいおい。もう始業五分前だぞ。撤収せい。撤収」
何となく口にし、愉快な仲間たちの輪の中から出る。
すると、「はーい!」と、一斉に元気よく返事された。
了解の返事だが、ガクッとさせられる。
俺の言うこと、ちゃんと聞くのか。
その仲間たちの輪から離れ、一人歩き出す。
しかし、三歩あるいたところで、またしても俺目当ての人物が立ち塞がって来た。
「竜堂くぅーん、おはよぉー!」
その猫なで声。
またしても、ゾワッとさせられる。