王子様とブーランジェール
「やーん!会いたかったぁー!どうして返信してくれないのぉー?何度も連絡したのにぃー!」
引き続き猫なで声でそう言いながら、こっちにやってくる。
く、来んな!
んなもん既読スルーだってばよ!
もうないって言ってんのに、しつこいな!
嵐さん…この女豹!
「もうっ!ミスターになったし、ヘアスタイル変えたし、一段とカッコよくなったぁー!」
手を広げてこっちにやってきて、抱きつこうとしてくる。
そのまま横にヒラリとかわした。
「もぉー!どうして逃げるのー!」
「うるっせえな!抱き着いてこようとすんな!おまえとは二度とないって言ってんだろ!」
敢えて冷たく突き放させてもらう。
もう絶対に、ない。
それに…このままだと、また桃李に勘違いされる。
アイツはバカだからな?
俺と嵐さんが付き合っていると、最近まで勘違いしていたバカだ。
『やっぱり二人は付き合ってるんだね』と言いかねない。
そんなのは、もう勘弁だ。
俺は、桃李に。
さすがにそろそろ気付いてもらわなきゃならない。
俺の、想いを。
なのに、この女、嵐さんに付きまとわれたままだと、はっきり言って邪魔。
なのに、なぜまだしつこく付きまとってくるんだ!
「もぉー!夜二人で会いたかったのにー!」
「…行くか!未成年は夜は家で寝てろ!」
「じゃあー?今度いつ会うー?」
…会わねえよ!
と、言いかけた時。
「…致しませんっ!!」
俺と嵐さんの間に素早く人影が入り込んだ。
「…えっ?!な、何よあんた!」
「夏輝様は金輪際、あなたと密会は致しませんわ?よく覚えておきなさい!…嵐美央!」
俺を背にして、嵐さんに向かって閉じたままの扇子を突き付けている。
再び、小笠原麗華?!
突然の展開に、唖然としていると、後ろから引っ張られる。
「夏輝様、こっちに来て!」
「来た!来た来た!あばずれヤロー!」
「あんな危険な女から離れましょ!」
「…え?ちょっ…」
小笠原の取り巻き女、鈴木さんと金村さんが、俺を引っ張って背に庇う。
そして、おもいっきり嵐さんを睨み付けていた。
え。何これ。
「な、な、何なのよあんた!邪魔しないでよ!」
突然のことながら、邪魔されたことは理解できたのか、嵐さんの目がつり上がる。
怒りに満ちている…!