王子様とブーランジェール
「ねえねえ竜堂くん、ここで何してるのー?何でいるのー?」
「そうよ。何で竜堂くん、いるの?」
まゆマネは、回り込んで俺の前にやってくる。
優里マネも後から着いて、俺の前に現れた。
来ないで…。
「い、いや…ただの荷物持ちですよ。パンの…」
「荷物持ちぃ?」
「竜堂くんが、パン持ってきたの?」
まゆマネは、俺をじーっと見ている。
「お二人こそ何でここにいるんですか…」
面倒くさい質問をされる前に、こっちから質問を投げ掛ける。
先に答えたのは、まゆマネだ。
「昨日エリちゃんから連絡きて、朝、家庭科室に来たら先代ミスターお気に入りのクロワッサンが食べれるって聞いたから、早起きしてきたの!」
「はぁ…」
「先代と同じもの食べれるなんて、楽しみー!」
まゆマネ、その言い回し、まさか…。
すると、まゆマネはフラッと作業中の桃李のもとへ寄っていく。
「ねえねえ、あなたがブーランジェール?ミスターお気に入りのクロワッサン焼いてる!」
「え?あ、は、はい…私は娘ですが」
「やーん!メガネちゃん可愛いーっ!」
まゆマネは常にテンション高め。
いつもの調子で桃李に話しかけていた。
「あ、竜堂くん、私はまゆりの付き添いだからね?付き添い。エリ達とは友達だし」
優里マネ、あくまでも付き添いを強調している。
ミスターお気に入りのクロワッサンが食べたい一心で来たわけではないのか。
「優里マネ、俺も付き添いです。あくまでもただの付き添い」
すると、後ろから理人が囁いてくる。
「へぇ?付き添い?ただの付き添い?あくまでも?ただの付き添い?」
「うるせえぞ…」
いちいちつっかかってくんな!
しかし、優里マネがなぜか俺に疑惑の目を向ける。
「…ホントに?」
「優里沙、そいつ。昨日エリを負かした一年坊主。エリの黄金バットの太刀筋見切って、エリの手から黄金バット取り上げたお見事なヤツ」
そう言って奈緒美が俺を指差す。
って、余計なことを言うんじゃない!このギャル!
「…竜堂くん、ケンカ?」
ま、まずい。
優里マネの声色が変わっている。
昨日、嵐さんとの件で注意されたばかりなのに!
今度は女子相手にケンカだなんて…怒られること間違いなしだ。
すると、狭山が片手にドリルを持ったままこっちにやってきた。
「バカめ!指が治ったらリベンジしてやるわ!それとも何だ?このドリルで!今ここで、そのお素敵なお顔に穴を開けてやろうか?あぁ?竜堂!」
そう言って俺の目の前でドリルにスイッチを入れる。
ブイーン!とけたたましい大きな音が鳴った。
あ、危ねっ…!
「あんた何その武器!ミスターは卒業してんだから、武装化はやめなさいって言ってるでしょ!それに、うちの大事な部員傷つけるのやめてくれる?!」
「傷つけられたのはこっちだバカめ!それに、武装化はやめぬ!この世の中、何があるかわからないからなぁ?」
優里マネと狭山がモメだした。
潤さんが横で「いつものことだから気にしないで…」と、俺に言う。
って、どの部分がいつものこと?
二人のモメ具合?それとも武装化?
何なんだ、この人たち…。
そうこうしているうちに。
パンの準備が終わったようである。
「皆さん、お待たせしてすみませーん!」