王子様とブーランジェール
「…お黙りなさいぃっ!このあばずれ女ぁぁっ!!」
嵐さんの怒声に被せるように、更なる迫力で怒鳴り返す。
これはものすごい迫力だ。
その扇子を突き付けたまま、ジリジリと迫っている。
「…って、おい!」
目の前で俺を巡るバトルが勃発することを感じて、思わず前に出ようとしたが。
「ダメ!ダメですって!」と、周りの女子たちに行く手を阻まれる。
な、何で!
「夏輝様…このメスは私に任せて夏輝様は早くお逃げ下さい…」
「は、はぁっ?!」
「このままでは、チャイムが鳴って遅刻してしまいます…なんなら、尻尾を巻いてお逃げしても全然構いませんのですよ…?」
そ、そう言われると余計逃げれないだろうが。
俺を逃がしたいの?逃がしたくないの?
っていうか。どういう展開ですか。
まるで、果たし合いをする雰囲気でしょうが。
我に返ると、顔がチベットスナギツネになってしまう。
「な、何が言いたいのよ…あんた」
一度は迫力にビビった嵐さんではあるが、眉間にシワを寄せて小笠原を睨み付けている。
そんな彼女を、小笠原は鼻で笑った。
「…何が言いたい?ですって?…言いたいこと、たくさんありますのよ?…よくも!私達の夏輝様を、酒で酔い潰して犯してくれましたわね?!」
えっ…!
その話、小笠原も知ってるのか?!
どこまで広がってるんだその話!
いろんな人が知っていて、ちょっと…ショックなんですけど。
すると、その話を聞いた嵐さんがブッと笑う。
「…いやだー。犯したとか、人聞きの悪いこと言わないでくれるー?私達は、愛し合ったの!お酒の力を借りたかもしれないけど?」
そんなセリフを吐いた嵐さん、とてもドヤ顔だ。
愛し合った…そんなセリフ、よく恥ずかしげもなく言えるよな。
バブル絶頂期のトレンディドラマに出てきそうなフレーズ。
本当に、マジで後悔するよ。あの時のお酒による過ちを。
「えー?何ー?ヤキモチー?竜堂くん取られて悔しいーみたいなー?」
すると、小笠原は突き付けた扇子を引っ込める。
パン!と音をたてて、手の平にしまう。