王子様とブーランジェール
「嵐美央…今一度、忠告しておきますわよ?」
「…なっ、何よ!」
「あなたが先代の準ミスを喰い荒らして、先代のミスターに罵声を浴びせた挙げ句にケガをさせた危険人物っていうのは、存じ上げておりますのよ?…これ以上、私達の夏輝様をそんな危険な目に合わせてたまりますか!」
「は…はぁっ?!」
「今後もし、夏輝様に近付くことがあれば…我が家のガス室にぶちこんで差し上げますわ?…覚えておきなさい!!」
小笠原の後ろで、山田が「ブイエックスぅー?」と言い、えへっ?と笑っている。
出た。ガス室。
やめろ。マジ卍な連中と同じ事を本当にしようとするんじゃない。
山田、ガスの種類は他国か。
「くっ…言われて『はい、そうですか?』なんて言うと思ってんの?」
返り討ちに合ったにも関わらず、嵐さんはまだ小笠原を睨み続けている。
なかなかめげないな。メンタル強い。
両者とも、激しく睨み合っている。
まさに、女の仁義なき闘い。
その原因が俺っていうのが、複雑…。
って、呑気に観戦してる場合じゃない!
いい加減やめさせるぞ!
学校で決闘するな!
俺を背に庇う女子たちを押し退けて、前に出ようとしたが。
俺は一足遅く、第三者が出現したのだった。
「…麗華!そこらへんにしとけ!バカめ!」
遠くからそう叫びながら、お仲間と共に階段を降りてくる。
もうこの語尾はお馴染みだ。
こいつの登場は、かなりややこしくて拗れることは間違いない…。
めんどくさっ!
「おぉー!随分とハデにやってくれちゃってるねー?」
奈緒美が立ち止まって階段から俺達を見下ろしている。
「私達も昔やってたじゃん。始業式のミスター出待ち」
「しかも、早速嵐を相手取っているのがミソです。さすがエリのセレブ仲間。ね?エリ?」
潤さんと菜月も一緒になって楽しそうに見下ろしている。
呑気にご観戦するな!
すると、お仲間のボスである狭山が騒ぎの輪の方へとゆっくり歩いてやってきた。
偉そうに腕なんて組んで。
「よう、麗華…」
「あら?エリお姐様、おはようございます?…言っときますが手出し無用ですわよ?」
「いやいや。そこらへんにしとけと言っておるのだバカめ。扇子なんて持ち出しやがって、本気モードかおまえは」
「オホホホ。エリお姐様に習って常時戦闘モードでいくことに致しましたの」
「じゃあ、お楽しみは後に取っておけ…?」
二人で顔を見合せて、怪しく笑い合っている。
何だか奇妙な光景だ。