王子様とブーランジェール
狭山が勝手に現れて、勝手に去っていった後のこの場の空気は微妙なものになる。
変に静まり、変にざわついていた。
なんて事をしてくれるんだ、あの狂犬は。
そんな雰囲気の中、小笠原は急に「オホホホ!」と笑いだす。
その唐突さが、やはり狭山の仲間だと思わせるな…。
「…ホームルームが始まりますので、本当に本日はこの辺にしておきますわ!一応、私達は高校生という真面目に勉学に励む身でございますので?」
意味のない高笑いが響いていた。
しかし、嵐さんだって負けてない。
「ふんっ!絶対に竜堂くんをモノにしてやるんだから。せいぜい指くわえて見てなさい?このただのファンたち!」
「あら?無様なことですこと?肉欲溢れてみっともない!」
「…何ですって!」
あぁ…またケンカしそうだ。
本日はこの辺にしとくんじゃなかったのかよ。
そして、モノにしてやるんだから宣言されはしたが、絶対にモノにはなりません。断じてなりませんけど…。
あれだけ拒否しているのに、わからないのか、めげないのか、それともただプライドが許さないのか…。
すると、急に機械のキーンとするイアリングの大きな音が辺りに響いた。
思わず耳を塞いでしまう。
何だ?とは、思う間もなく。
音の主は、いつの間にか騒ぎの輪の中に入ってきていた。
『はいはいまもなくチャイムが鳴りますよー。ホームルーム始まりますよー。ミスターに群がる女子生徒の皆さん、今すぐ教室に向かわなければ全員遅刻にしちゃいまーす。さあ行った行った。教室行った行った』
拡声器を通した男性の声が一気に響いて、辺りは静まる。
BGMのように始業チャイムが鳴っていた。
あっ…仙道先生?!何で?
『はいはいあなた方もミスターもただの生徒ですよー。遅刻は評定に影響しまーす。すぐさま教室に向かってくださーい』
拡声器を通して、周りの女子生徒に呼び掛けて、撤収を促す仙道先生。
先生、DJポリス?
DJ先生?
だが、その呼び掛けで女子生徒は素直にバラバラと少しずつ撤収して行ってる。
嵐さんは、いつの間にかいなくなっていた。
小笠原麗華は『仙道先生、ご苦労様です!』と、言い残して山田や取り巻きたちと俺に手を振りながら去っていった。
「先生すごい」
『ミスターに関する騒ぎの鎮圧は、ミスターの担任の仕事だそうです…ちょっと、頼むわ!ミスター!』
先生は、俺に対して拡声器を使ったまま話し掛けてくる。
あ、そう…余計な仕事、ごめんね。