王子様とブーランジェール
…しかし、さっきのは何だったのだろうか。
登校してくるなり、小笠原率いる愉快な仲間たちが盛大なお出迎えしてくるなんて。
まるで、アイドルの出待ちじゃねえか。
たかがミスターになったぐらいで…。
…いや、されど?なのか?
そんでもって、あんな公衆の面前で嵐さんと口論して大騒ぎになり。
めんどくせー狭山も絡んできて。
DJ先生も出動しちゃって。
まさか…こんな毎日が続くのか?
『ミスターってのはね、どこに行ってもみんなの視線を浴びるし、いつも人に囲まれて騒がれている存在だから…』
まさかのまさかで。
こんな俺ごときのDKが…?
ゾワッとして、吐き気がした。
こんな女子たちの仁義なき闘いが続くかと思うと、考えただけでもうしんどくなる。
悪い予感しかしない…!
先が思いやられる。
「…夏輝、おはよ」
校長の話を聞くのみという始業式を終え、体育館から戻ってきた。
これからロングホームルームがはじまるため、先生待ちをしている最中。
久々に会った咲哉や陣太と『夏休み何してた?』みたいな談笑をしていると、フラッと俺達のところへとやってくる。
おフランス帰りの桃李が。
「おう、どうした?」
わざわざやってくるなんて、どうしたんだ。
しかし、その表情はジトッとしている。
とても悲しそうな空気を漂わせていた。
「…私、痩せてない?」
「………」
全然、わからん。
また、その話題か。
もう一週間だぞ。しつこいな。
先日、三週間のおフランスでのサマースクール兼観光から帰って来た桃李。
しかし、向こうではパンとフレンチの食い倒れ状態だったらしく。
肥って帰って来た。
…とは言っても、全体的に多少ふっくらとしただけであって、ブタのように肥えているワケではない。
元々体は細い方だから、むしろ健康的と言えばそうなのだ。
ぽちゃっとしたなー。ぐらい。
山田のようにビッグ…ではなく、プチマシュマロみたいな。
しかし、女ってヤツは、少しの増量も許されないらしい。
帰国した直後に、うちに遊びに来て。
その時に、双子の姉・秋緒にそのことを指摘された。
『…あれ。桃李、少し太ったんじゃありませんか』
『…え?』