王子様とブーランジェール
そして、こっちに近寄ってきて、バッと紙袋を差し出される。
「お誕生日おめでとうございます!これ受け取って下さい!」
「え…!」
しかし、返事をする間もなく、彼女はその紙袋を俺に押し付けて、さっさと向こうの方角へ走り去ってしまった。
な、なんだありゃ…?
押し付けられた紙袋を持って、呆然と立ち尽くす。
「え?何?また愛の告白?それともただの誕おめ?」
少し先に階段を昇っていた咲哉は、階段を降りてこっちにやってくる。
「………」
「…ミスターはやはり違いますな。知らない女子が誕プレくれるとわ」
「やめろその言い方。俺だって困ってるっつーの」
ホント、困る。
このミスターとかいう肩書き。
二学期初日に、小笠原麗華や山田フリージアたちに玄関でお出迎え出待ちをされた時には、この先どうなってしまうのかと思いきや。
あの盛大さはあの日だけだった。
たまに廊下ですれ違うと絡まれ、あのくだりが始まるが、大事にはならず。
良かった…。
と、思うのもつかの間。
…今度は、そこら辺の知らない女子が、ここぞとばかりに俺の周りにちらほらと視界に入り込んでくる。
先ほどみたいに、弾丸で話しかけてきたり。
手紙を渡されたり。
前にお断りした女子が、再度声をかけてきて遊びに誘われたり。
二学期に入ってから、さらに多くなった。
そんなの、もちろん全てお断り。
部活が忙しいし、そんな気ないし、桃李に勘違いされても困るし。
これも、ミスターという肩書きのせいなんだろうか。
だとしたら、とても迷惑な話だ。
なんの役にも立たない。
これで桃李が『夏輝がミスター?素敵!好きになっちゃう!』だなんて思ってくれたらミスター万々歳なんですけど?
もちろん、桃李はそんなものを意識する輩ではない…。
そんなものより、パンの焼き上がりのこんがりきつね色が素敵!と、思うんじゃないだろうか。
非っ常に、残念な感じ。
「しかし、夏輝の誕生日を知らない女子が知ってるとか、どこから聞くんだろうな?本人も忘れてたのに」
「知らねえ。そんなことより、そんなに金あんならシャトーブリアン食わせてくれ」
「テキサスにシャトーブリアン置いてあんの?いくら?」
「マジ?本当に食わせてくれんの?それ、だいぶシビれる誕プレだぞ?」
「予算内ならねー」