王子様とブーランジェール
生暖かい息が耳にかかり、それは全身への寒イボとなっていってしまい。
思わず悲鳴を軽くあげてしまった。
な、何でどうしていつも、このビッグマシュマロは息を吹き掛けてくるんだよ!
しかし、いつものくだりでは、ここで小笠原が登場するのだが、今回は違った。
「フリージアぁっ!なんであんたはいつも夏輝様に近いのよ!離れなさいよ!」
「同性だからって許されると思ったら大間違いだよ!おまえ、ゴーストバスターズに出てるだろ?!合唱部にいそうなお上品な感じでも、おまえは所詮ゴーストバスターズなんだよ!」
「この間、チロリロ村でスパゲッティ三皿食べてたの知ってんだよ!少しは節制しろ!絶食しろ!ラマダーンしろ!」
「麗華んちのガス室に連れて行くぞ!ブイエックスな!」
俺を取り囲む女子達から山田に向けて、ごうごうと非難の嵐が飛び交う。
すごい罵声だ。
同性だからって、とは…やはり、山田は男なんだな?
大声で怒鳴るもんだから、輪の中心にいる俺も被害を被り、うるさいの何の、また鼓膜破けそう!
あぁーっ!うるせえ!めんどくせー!
「あぁーん。みんなひーどーいー。夏輝様たすけてぇー」
山田が俺の左腕をギュッと抱き締めて完全に密着した。
一気に寒イボ全開。
「…くっつくなあぁぁっ!」
またしても、仁義なき闘い…!
『…あなたたちぃぃっ!お黙りなさいぃぃっ!』
女子の通る一層の怒鳴り声が、ここ一番で廊下に響いた。
あまりにも通るため、仁義なき闘いを繰り広げていた女子連中が一気に静まり、一斉に声の主の方を見る。
お黙りなさいぃぃっ!で、もう誰だかわかるところがイタイ。
小笠原麗華…。
後ろには、お馴染みの御付きの者、鈴木さんと金村さんがいる。
「何を猫の発情期のように騒いでいるのかしら?…あなたたち、行儀が悪いったらありゃしないわよ!」
小笠原は闘いの輪の中に入ってきて、騒ぎの原因の女子たちを「しっしっ」と扇子を振って追い払い、山田の額を扇子で容赦なくバシッ!と叩いていた。
「この入道雲女!」と、一言添えて。
「れ、麗華!」
「どこ行ってたのよ!」
「お黙りなさい!お嬢様も忘れ物を取りに行くのです!…じゃなくてあなたたち、騒ぎを起こすんじゃないわよ!夏輝様に迷惑がかかるでしょうが!」
小笠原はお叱りを入れているようだが。
あんたたちの存在そのものがもう十分迷惑被っていることを、理解して戴きたい。