王子様とブーランジェール



「エリちゃん、そこ邪魔だよー!どいて!」

「るっさいぞバカめ!私はこのビッグアップルパイに感激して魂の撮影を行っているのだ黙れ!」

「エリちゃんが邪魔というか、ドリルが邪魔なのー!」

あの狭山も…ホールごと出てきたアップルパイに興奮して撮影に夢中になっている。

昨日は金属バット振り回してたくせに。

こういう時は女子か。

「ライオン丸、ちょっとアップルパイ切り分けてみて。切り分けたとこ写真に撮りたい」

「わかりました!」

桃李も張り切って協力しているわ…。



ギャル達が撮影会に夢中になっている最中、潤さんがこっちにやってきた。

呑気に手を振りながらやってくる。

「おまえらも付き添いご苦労さんだね?」

「潤さん、写真は?」

「もう撮った。でもミスターお気に入りのパンがまさかパンダフルのパンだったとわ…」

パンダフルは、潤さんにとってもお馴染みの場所でもあるから、狭山たちよりはさほど興奮もしないんだろうな。

「しかし、久しぶりだね。夏輝。和田」

「っつーか、三日前にジムで会ってるでしょ」

「あ、そうだったね。あはは」

俺達の小・中からの先輩である潤さん。

俺が通っているキックボクシングのジムの隣にある、テコンドー道場の生徒。

時々顔を合わせて話をするから、それなりに仲は良い。

姉さんみたいな存在。

…いや、うちの実の姉たちより、断然マシな人。



しかし俺は、今回の件で潤さんに物申したいことがあった。

昨日の、教室でのあの事件のこと。


「っつーか、潤さん、何で昨日来てくんなかったんですか!」


「え?」

いきなりの俺の振りに、きょとんとしている。

「昨日、あの時、狭山たちと一緒に潤さんが教室に来てくれりゃ、桃李も俺達も知ってるし、スムーズに済む話だったでしょうが!なのに、モメてあんな乱闘騒ぎになって!」

俺だって女相手にケガを負わせることもなかったのに!

…実はここ、結構気にしている。

「い、いやー…昨日は用事あってすぐ帰ったし、まさかミスターのあの投稿がパンダフルでのものとは思わなかったし、まさかエリがそこまでやるとも思わなかったんだよねー…ごめんっ!」

俺に向かって手を合わせる潤さん。

そして、まあまあと背中を叩かれる。

「…でも、夏輝。やっぱあんた強いわ。よくエリのあのバットの太刀筋受けたね。んでもって、すかさず手を狙ってバットを手離させるとは」

「はぁ?!相手女子でしょ?」

「いやいやいや。エリをなめたら、死ぬよ。あいつ、そこらの男より断然ケンカ強いから。運動神経が常人離れしてるし、女のくせに男より力が強いし。場数も踏んでる。ヤクザ半殺しにしたこともあるし」

「はぁ?!」

ヤクザを…半殺し?!

どんなシチュエーションだったんだ?!

そんなの、ある?

普通に暮らしていたら、そんなのないだろが!


「だから、昨日の夏輝の判断は間違ってないって。手を出さなかったら、生徒の一人や二人、救急車だったよきっと。気にすんな」


気にすんなったって…。


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