王子様とブーランジェール
「パン。パン。アイスコーヒー。パン。コーヒーショップのギフト券。アイスコーヒー。パン…パンとアイスコーヒーばかりじゃねえか」
陣太が袋からひとつずつ取り出して並べている。
理人は、そのひとつのアイスコーヒーのペットボトルを持ってまじまじと見ていた。
「夏輝の好きなモノ、良く知ってんなー。これ無糖でしょ。微糖じゃなくて無糖。わかってんね」
咲哉も一緒になって、その机の上の貢ぎ物を眺めている。
「ちなみに、家庭科室に持っていったナマ物は、お肉だぜー?サーロインステーキの真空パックとか、カルビとか」
「はぁ?ホントに夏輝の好きなモノで攻めてくるな」
何をやっとるんじゃコラ。
人の貰ったもので遊ぶんじゃない。
すると、桃李が隣でもじもじしている。
もじもじしてんの、かわいいな。
目が合うとえへっ?と笑った。
うっ…笑いかけるな!ドキッとするじゃねえか!
「…だから、何だよ!」
照れるあまり、言い方が強目になってしまう。
だけど、何でもじもじしてんの?
…あ。ひょっとすると。
『夏輝、お誕生日おめでとう…』
と、お祝いの言葉、用意してくれてるとか?
だから、そんなもじもじして、恥ずかしそうに?
や、やめろ。照れるじゃねえか…!
「あのねあのねっ。プレゼントの中に、ブーランジェリーニシノのパンあったの!お願いお願い。少し食べさせて。前から食べてみたかったのーお願いーひとつ恵んでくださいー」
「………」
食べ物目当てですか…?
恵んでくださいって、物乞いですか?
俺の誕生日の貢ぎ物に集る、俺の好きな人…。
で、お祝いの言葉、ないの?
桃李、俺におめでとう言ってくれないのか?
なんと、切ない…。
しかし、俺はめげない。
好きな人が俺に物乞いしようが、何しようが。
その上を行く更なるアプローチをしないと、このバカには勝てない。
「…じゃあ、一緒に食べるか」
「やたーっ!ありがとー」
そう言うと、桃李は手をパチパチ叩いて喜んでいる。
テンション高めにルンルンとしながら、俺の後に着いてきた。
パンひとつで安いな。
ニコニコの笑顔で喜んでる桃李。
かわいいな…。
小さな幸せを感じてしまった。
「別に食べてもいいんだけどよ、せっかく痩せたのにまた太るぞ?」
「え、えっ!じゃあ、ひとつで…いや、ひとつの半分こで構いません…」