王子様とブーランジェール
腑に落ちない。
気にすんなったって、俺の軽い蹴りでヤツは指を負傷してるんだ。
女子にケガを負わせた。
ここがすごい引っ掛かるんだよ。
「………」
しっくりこない。悶々と黙ってると、「あ、そうだ」と潤さんが俺の顔を覗きこんできた。
ちょっと悪い顔で小声で話してくる。
「そういやさぁー?夏輝、どうなってんの?」
「どうなってんの?って…何が」
俺の姉さん的存在はニヤリと笑う。
そして、遠くでアップルパイを切り分けている桃李を指差した。
「あれと。桃李とはどうなってんの?って。もう付き合ってんの?」
「なっ…!」
そう、来たか!
「ど、どうって…」
「あれ?あんたあの子がきっかけでジム通い始めたんでしょ?『桃李を悪者から守るために強くなる!』みたいな?かれこれもう5年。大会で優勝するぐらい極めちゃってるけど。ねえ、和田?」
潤さんは、隣にいる理人にも話をふった。
っていうか、理人に話を振るな!
そいつは今、その件に関しては尖ったナイフだぞ!
「いーえ、全然ですよ。何の進展もナシです。五年間変わらず木の陰から見守ってる、ちゃぶ台引っくり返すガイアンツの星状態ですよ。屋久村さんからも何か言ってやってくださいよ。ストーカーやめろとか、おまえはチキンだとか」
「え!マジ?あり得ないんだけど!5年だよ?」
「しっ!声大きいですって!」
そうだった。
この人も、俺のこのこじれた恋愛事情を知ってるんだった…。
ホント姉さんみたいだから、何でも話してしまってつい…。
潤さんは、笑いを堪えている。
予想通りのリアクションだよ…あぁ。
「…で、五年間も片思い中のくせに、嵐に酔い潰されて犯されたワケだ。マジあり得ないんですけどー!」
「何でその話知ってるんですか!」
「バカ、だいたいみんな知ってるって!聞いた時はビックリしたー!夏輝、喰われたー!みたいな?」
そして、更に爆笑している。
潤さんにまでその話が伝わってるなんて!
どんだけ噂になってんの…恐っ。
高校、恐っ。
「まあ、その話だけど…夏輝、後で覚悟した方が良いと思うよ?」
「え?」
覚悟?
その時、「潤、パン食べるよー!」と、声をかけられ潤さんはテーブルの方に行ってしまった。
覚悟って、何だ。
しかし、その意味を知るのは、今から15分後のことであった。
ギャル達がテーブルに着き、声を揃えていた。
「いっただっきまぁーす!!」