王子様とブーランジェール



そう言って、一番上の姉・春愛は遠くから段ボール運搬の様子を伺っている。

「全部誕生日プレゼント」

すると、前を通りすがりざまに、俺の腕を掴んでくる。

「…何だよ!」

「あのジャージの人…なっちの先生?」

「え…あ、担任の先生」

「背も高いし、カッコいい…!」

そう言って、目をキラキラさせて段ボールを持っている先生を見つめている。

やれやれ。

春愛は自分が166㎝と背が高いから、身長の高い男が大好き。

っていうか、先生をロックオンするな!

俺の担任の先生だっつーの!



「夏輝くん、今日は私の好きなお寿司パーティーですよ」


秋緒もやってきた。

…そうだ。俺とこいつは双子。

俺が今日誕生日なら、こいつも誕生日だった。

ちっ。いちいちお寿司パーティーとかうるせえな。



「そういえば、夏輝くん。パンダフルに行ってきましたか?」

「パンダフル?何で?…あっ!」

「桃李、待ってますよ?私はもう行ってきましたけどね」



何故とか言いつつも、急に思い出してしまった。



『じゃあ何時までも待ってる』



そ、そうだ。桃李との約束。

帰りに寄るって言っておいて…車で帰って来たもんだから!

スルーしてしまった。



ま、まずい。まずいぞ…!



軽くあわあわと慌てる。

ケータイを見ると、着信などはないが、時計に目がいってしまった。

やばっ…8時になる!

い、いや、まず段ボール運んでから…いや、それじゃ遅い!

いや、でも、先生に悪いし…。



とりあえず、急いで段ボールやら発泡スチロール箱を運ぶ。

しかし、落ち着かない。

待てない…!



「竜堂ー。これで全部だぞー?」

「…先生、ありがと!ごめん!ちょっと行ってくる!ごめん!ありがと!」

「は?…おい!どこ行くの!」



先生の返事を待たずに、一目散にダッシュで家を出る。

全力疾走、Bダッシュ。



「…はぁ?どしたんだあいつ」

「逢い引きじゃない?」

「先生!美味しいワインあるんで、寄ってきませんかー?」

「あ、いやお母さん、車ですし…」




やばい。やばいやばい!

危うく忘れるところだった!

これですっぽかしなんかしてみろ?

印象最悪だっつーの!




今日はいろんな人に祝ってもらったけれど。

たくさんのプレゼントを貰ったけれども。



特別な日、だからこそ。

特別な人との時間は、少しでもいいから…欲しい。




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