王子様とブーランジェール
ただいまの時刻は8時丁度。
家庭科室でギャル達の朝食タイムが始まった。
「わああー!ミスターのクロワッサン、いただきまぁーす!」
テンション高めのまゆマネ、誰よりも早くクロワッサンにかぶりついていた。
そういやこの人、部活でも何かと良く食べてるよな。
「いやー焼きたてめっちゃいい匂い!」
「あったかーい」
そして。
一口食べて、顔を見合わすギャル達。
「…何これ、うまっ!」
ギャル達のお口を唸らせたようだ。
「カリふわー!パリっとしてるー!」
「すごい、いい匂い」
「ああぁぁマジうまい、さすがミスターチョイスのクロワッサン!」
「やだホント。これ、いくらでもいけちゃう感じ!」
そんなに興味を示していなかった優里マネも、ちょっとテンション上がっている。
「超うまぁぁっ!ミスタあぁぁっ!最高おぉぉっ!」
まゆマネ、絶叫だ。
「これこれ。やっぱパンダフルはクロワッサンだねー」
そう言って、潤さんは隣にいる桃李の背中を叩く。
叩かれた桃李はフラッと横に揺れている。
「………」
あっという間に絶賛の嵐のギャル達とは対称的に。
一方、狭山は無言で黙々と食べていた。
そして、クロワッサンひとつ食べ終えて、口をやっと開く。
「…神田」
「は…はい」
「美味いぞ」
右手で小さくガッツポーズ。
「は、はい…!」
一番恐い狭山からのお褒めの言葉をもらったからなのか。
桃李の顔がみるみるうちにパッと笑顔になっていく。
そして、小声で。
「やった…!」
と、呟いていた。
すごい嬉しかったようだ。
満面の笑顔で喜ぶ桃李。
めっちゃ可愛いな…。
なんて。
ちょっとドキッとしたのは、言うまでもない。
…まあ、パンダフル常連の俺からしたら。
だろ?だから、美味いんだって。
パンダフル…いや、桃李の作るクロワッサンは。
食感、味、絶妙なんだよ。
ミスターだけじゃなくって、俺からしてもナンバーワンなんだっつーの。
見たか、このギャルども!
…みたいな感じ?
俺が何かしたワケじゃないけど、してやった感十分でちょっと満足。
俺が何かしたワケじゃないけど、鼻高々な気分になってしまった。
「夏輝、理人」
「ん?」
声をかけられて、初めて気付く。
俺達の傍にはいつの間にか桃李が立っていた。
「どうした?」
「これ、食べて?」
桃李の手には、皿に乗っかった切り分けられたアップルパイが二つ。
それを俺達二人に差し出してくる。
「たくさんあるから、一緒に食べよ?」
「お、どうも」
アップルパイが与えられた。
ちょうど何か食いたいとか思っていたから、ラッキー。
すると、向こうからまゆマネがこっちに手を振って手招きしている。
「竜堂くんも和田くんも一緒にお茶しよーよー!」
朝からギャルたちとお茶…。