王子様とブーランジェール
徒歩5分の距離を全力疾走は、筋肉スタミナバカの俺でもさすがに息が荒くなる。
一気に汗かいて、呼吸が苦しくなった。
到着したはいいが、全力疾走したおかげで途端に体がズシッと重くなる。
店の前をよろよろと歩き、息を荒くしたまま膝に手をついてうつむき立ち止まってしまった。
しかし、ここで止まってはいけない。
よろよろとしながらも、店のドアノブに手をかけて、ゆっくりとドアを引いた。
鍵、開いてる…。
「こ、こんばんは…」
ドアを開けると鈴の音が鳴る。
奥の住居スペースから「はーい」と声が聞こえて、電気が付いた。
「夏輝、おかえりー」
「お、おう…」
サンダルを履いて出てきた桃李。
すでに部屋着姿だった。
遅くなったのに、特に怒ってる様子もなく普通だ。
むしろ、笑顔を見せている。
とりあえずよかった…。
力が抜けて、よろよろとイートインスペースの椅子に座り込む。
今日の疲れ、ここぞとばかりに一気に出てきた。
「なんか、忙しかったの?女の子いっぱい列に並んでたし…」
「いや…気にするな…」
それ、言わないで。忘れて。お願い。
「ホント、言ってくれれば持っていったのに。忙しそうだったから」
「だから、それはいいって…」
だから。おまえに夜道を一人で歩かせるわけには…お互いにしつこいな。
「ちょっと待っててね」
そう言って、奥の厨房へと向かう。
その後ろ姿を横目で見つめていた。
桃李、背中小さいな。華奢だ。
長袖のパーカーにショートパンツで、足が丸出しだ。
足、細い…。
それで、胸デカいとか犯罪だろ。
あー…。
疲れて頭がやられてるのか、よからぬことばかり考える。
見た感じ尻の形が良いかもしれないとか、白肌の頬っぺたを見たいとか、腹は引っ込んだのか、もう本当にマシュマロじゃないのか、確認してみたいだとか、何とかかんとか…。
あぁ、疲労困憊って恐い。
疲れて眠たくなってきた。欠伸出そう。
「お待たせー。持ってきたよー」
桃李の声が耳に入ると、無意識に背筋を伸ばしてしまった。
何だか、すごく後ろめたい。
エロいこと考えてごめん。本当にごめん。
桃李の両手には、少し大きめの真四角のケーキ箱がある。
…ん?真四角?
いつものパウンドケーキなら、長方形じゃないのか?