王子様とブーランジェール
「あのね、あのね、今年はちょっと違うんだよ?」
「えへへへ」と笑い、ウキウキと嬉しそうに、そのケーキ箱を俺の前に置いていた。
そして、箱を開けて中の物をそっと取り出す。
「じゃーん!おめでとー!」
「おっ!」
登場したモノに、思わず声をあげてしまった。
意外や意外…!
こんがりときつね色の格子状に重なったパイ生地、良い照り具合で。
ほんのりと甘酸っぱい薫りがする。
アップルパイだ…!
ホールで出てきたその真ん中の下寄りに、クッキーで作った大きめの四角いメッセージプレートが乗っかっていた。
その、メッセージプレートがアガる。
目にした途端、体から勢いよく熱風が吹き出す感覚を覚えた。
嘘っ。ヤバい。感激だ…!
これ、俺のために?
《HAPPY BIRTHDAY NATSUKI》
激アツ!!
「アイシングクッキーでプレート作ったのー。すごいでしょー?アップルパイに乗せるの、ちょっと変だけどねー」
「い、いや、すげえよおまえ…」
「この間、アップルパイ美味しいって言ってくれたから、今年はこれにしようと思ったんだ。アイシングクッキーはただ作りたかっただけ」
ただ作りたかっただけで、こんなの作れちゃうの?
おまえ、パンとお菓子作りは天才的だよ…天才的。
感動のあまり、言葉が出なくなってしまった。
…今日は、散々だったけど。
最後の最後で、これが出てくるなんて。
もう、終わりよければ全てよしだ。
疲れが一気に吹っ飛んだ。
まずは写真を撮る。
スマホでバチバチたくさん撮ってやった。
いろんな角度から。何枚も何枚も。
「喜んでもらえてよかったー。写真撮ってくれるぐらい喜んでくれるなんて、作ってよかったー」
「バカヤロー!食べたら姿カタチが無くなっちまうだろ!食べる前に写真だ写真!」
「そうだね」
勢いあまって、30枚も写真を撮ってしまった。
写真を撮り終えて、深く腰掛ける。
まだ興奮が冷めやらぬ。
もう感激のあまり、頭の中が真っ白になりかけていた。
これ、俺のために…俺のために作ってくれたんだぞ?
愛されてるとしか思えない!
そう、勘違いしてしまいたい!
「あのね、秋緒にはチーズケーキ作ったんだ。アイシングクッキーのプレート、夏輝とお揃いだよ?」
…本当に、勘違いでしたね!