王子様とブーランジェール




「あのね、あのね、今年はちょっと違うんだよ?」



「えへへへ」と笑い、ウキウキと嬉しそうに、そのケーキ箱を俺の前に置いていた。

そして、箱を開けて中の物をそっと取り出す。

「じゃーん!おめでとー!」

「おっ!」

登場したモノに、思わず声をあげてしまった。

意外や意外…!



こんがりときつね色の格子状に重なったパイ生地、良い照り具合で。

ほんのりと甘酸っぱい薫りがする。

アップルパイだ…!

ホールで出てきたその真ん中の下寄りに、クッキーで作った大きめの四角いメッセージプレートが乗っかっていた。



その、メッセージプレートがアガる。

目にした途端、体から勢いよく熱風が吹き出す感覚を覚えた。

嘘っ。ヤバい。感激だ…!

これ、俺のために?



《HAPPY BIRTHDAY NATSUKI》



激アツ!!



「アイシングクッキーでプレート作ったのー。すごいでしょー?アップルパイに乗せるの、ちょっと変だけどねー」

「い、いや、すげえよおまえ…」

「この間、アップルパイ美味しいって言ってくれたから、今年はこれにしようと思ったんだ。アイシングクッキーはただ作りたかっただけ」

ただ作りたかっただけで、こんなの作れちゃうの?

おまえ、パンとお菓子作りは天才的だよ…天才的。

感動のあまり、言葉が出なくなってしまった。



…今日は、散々だったけど。

最後の最後で、これが出てくるなんて。

もう、終わりよければ全てよしだ。

疲れが一気に吹っ飛んだ。



まずは写真を撮る。



スマホでバチバチたくさん撮ってやった。

いろんな角度から。何枚も何枚も。



「喜んでもらえてよかったー。写真撮ってくれるぐらい喜んでくれるなんて、作ってよかったー」

「バカヤロー!食べたら姿カタチが無くなっちまうだろ!食べる前に写真だ写真!」

「そうだね」

勢いあまって、30枚も写真を撮ってしまった。



写真を撮り終えて、深く腰掛ける。

まだ興奮が冷めやらぬ。

もう感激のあまり、頭の中が真っ白になりかけていた。

これ、俺のために…俺のために作ってくれたんだぞ?

愛されてるとしか思えない!

そう、勘違いしてしまいたい!



「あのね、秋緒にはチーズケーキ作ったんだ。アイシングクッキーのプレート、夏輝とお揃いだよ?」



…本当に、勘違いでしたね!



< 471 / 948 >

この作品をシェア

pagetop