王子様とブーランジェール



おいっ…!



と、言葉を返す間もなく、桃李は俺の手に持ってるアップルパイにかじりついてしまった。

豪快な俺の一口とは違って、カプッとした小さな一口だったが。

かじりついた後は、口元をもぐもぐさせながら顔を離す。

「うん、美味しい。ばっちり!」

「………」

うんうんと一人で頷いているその横で、俺はまたしても頭が真っ白になりかけていた。



俺の手に持ってたアップルパイを、ダイレクトにかじりやがった…!

しかも、これ、あーんしてやったというカタチじゃないか?

かじりついた口が、唇が…エロかった。

普段バカのくせに、何でポイントでエロいんだよ!



頭の中は、軽くお祭り状態になる。

確認で何度も思い返すと、急に恥ずかしくなってしまい、顔が熱くなってきた。

ついでに、学祭のキスのことを思い出してしまい…あぁっ!何でこんな時に出てくるんだよ!

気を紛らわせようと、手に持っていた残りのアップルパイを一気に食べる。

…あぁっ!これ、桃李がかじったヤツだった!

桃李がかじったアップルパイ、食べてしまった!

…ああぁぁっ!



もう、収拾がつかない。

とうとう頭を抱えてうなだれてしまった。

何故こうも、次々と…!



「夏輝、どうしたの?眠たいの?そんなに疲れてたんだ…」



…そう、疲れてるんだよ俺は。

だから、あまり一喜一憂させないでくれ…。

それ以上、突っ込まないでくれ…!



ある程度落ち着いて、再び顔を上げると。

桃李はすぐ隣に立っていた。

本当に真横で距離が近くて、ビクッとしてしまう。

今度は何だ?!



「な、何だよ!」

「アップルパイ、しまうね?」

「………」

あ、そうですか…。



出しっぱなしのアップルパイを、丁寧にケーキ箱に収めている。

「はい」と、その箱を俺の傍に置いた。



…俺が、こんなにも忙しくドキドキしたり、のたうち回ってるのに。

なぜおまえは、涼しい顔でツラッとこいてるんだ。



何で、何も思ってくれないんだ…。



その至近距離にいる横顔を見つめてしまう。

白いけど、ほんのりピンクな頬っぺ…。

柔らかかったよな…。



いろいろな想いが頭を巡って、衝動的に手を伸ばしてしまった。



「…わっ!」



左の頬に触れたと同時に、桃李が声をあげて体をビクッと震わせる。



「な、なななな何っ?」

「桃李、あのさぁ…」



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